2026年、製造業が直面するコンプライアンスと訴訟リスクの見通し

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米国の製造業団体が発表したレポートは、2026年に向けて企業コンプライアンスと訴訟リスクが新たな局面を迎える可能性を示唆しています。本稿では、この動向を日本の製造業の視点から読み解き、今後備えるべき重要な論点を解説します。

はじめに:対岸の火事ではない米国の法務動向

先日、米国の製造業団体CBIAが「2026 Corporate Compliance, Litigation Outlook for Manufacturers」と題したレポートを発表しました。これは、製造業のリーダーが今後直面するであろう、企業コンプライアンスと訴訟に関する3つの主要な問題を予測するものです。海外展開やグローバルなサプライチェーンが当たり前となった現在、米国の法務・コンプライアンスの動向は、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。本稿では、このレポートの趣旨を踏まえ、日本の実務者が押さえておくべき将来のリスクについて考察します。

予測される3つの主要なリスク領域

具体的な内容は元記事に詳述されていませんが、近年の世界的な潮流から、製造業が特に注意すべきリスク領域は以下の3つに集約されると考えられます。これらは相互に関連し合っており、複合的な対策が求められます。

1. サプライチェーン全体を対象としたESG・人権デューデリジェンス

気候変動対策や人権への配慮といったESG(環境・社会・ガバナンス)への要請は、今や企業の評価を左右する重要な要素です。これまでは自社の活動範囲が主な対象でしたが、今後はサプライチェーン全体、つまり原材料の調達から製品が顧客に届くまで、さらには廃棄・リサイクルに至るまでの全工程におけるコンプライアンスが問われるようになります。特に、海外の取引先における強制労働や児童労働といった人権問題、あるいは環境規制違反が発覚した場合、自社の責任が問われ、大規模な訴訟や不買運動に発展するリスクをはらんでいます。サプライヤーの選定・評価基準を見直し、トレーサビリティを確保する仕組みの構築が急務と言えるでしょう。

2. スマート工場化に伴うサイバーセキュリティとデータプライバシー

IoTやAIの導入によるスマート工場化は生産性向上に大きく貢献する一方、新たなリスクを生み出しています。工場の生産設備を制御するOT(Operational Technology)システムがインターネットに接続されることで、サイバー攻撃の標的となる可能性が高まります。ランサムウェアによる生産停止や、設計データ・技術ノウハウといった機密情報の漏洩は、事業の根幹を揺るがしかねません。また、製品を通じて収集した顧客データや従業員の個人情報の管理も、各国のデータプライバシー規制(EUのGDPRなど)によって厳格に定められており、違反した際の制裁金は莫大です。情報システム部門だけでなく、生産技術や工場管理部門が一体となったセキュリティ対策が不可欠です。

3. 技術の高度化・複雑化に伴う製造物責任(PL)リスク

自動運転技術やAIを搭載した医療機器など、ソフトウェアが製品の価値を大きく左右する時代になりました。製品が高度化・複雑化するにつれて、予期せぬ不具合や事故が発生する可能性も高まります。こうした事故が発生した際に、その責任の所在を特定することは極めて困難です。ハードウェアの欠陥なのか、ソフトウェアのバグなのか、あるいはAIの判断ミスなのか。従来の品質管理手法だけでは対応しきれない新たな製造物責任(PL)リスクが顕在化しつつあります。設計開発段階でのリスクアセスメント(FMEAなど)の高度化や、市場投入後の製品データを監視・分析し、迅速に異常を検知する体制の構築が求められます。

日本の製造業への示唆

これらのリスクは、もはや法務部門だけの問題ではありません。経営層から工場現場に至るまで、全社的に取り組むべき経営課題です。今後の事業継続性を確保するために、以下の点を改めて確認することが重要です。

  • リスクの当事者意識を持つ: コンプライアンスや訴訟リスクは、法律の専門家だけが対応するものではありません。特に、サプライチェーン管理、サイバーセキュリティ、製品安全は、それぞれ購買、生産技術、品質保証、設計開発といった現場部門が主役です。自部門の業務に潜むリスクを洗い出し、対策を講じる意識が求められます。
  • サプライチェーンの可視化と連携: 自社の管理体制が万全でも、取引先で問題が発生すれば影響は避けられません。一次取引先だけでなく、二次、三次取引先まで含めたサプライチェーン全体のリスクを把握し、管理する体制作りが必要です。定期的な監査や情報共有など、サプライヤーとのより深い連携が鍵となります。
  • 「予防」への投資を惜しまない: 訴訟や事故が発生した後の対応コストは計り知れません。問題が発生する前にリスクを特定し、未然に防ぐ「予防法務」や「予防品質」の考え方がこれまで以上に重要になります。リスク管理体制の構築や人材育成、システム導入といった予防への投資は、将来の損失を防ぐための必要経費と捉えるべきでしょう。

グローバルな事業環境の変化は、新たなビジネスチャンスをもたらす一方で、未知のリスクも伴います。変化を的確に捉え、着実に備えを進めることが、企業の持続的な成長を支える礎となるはずです。

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