ホンダ、米国での燃料電池システム生産を終了へ – 事業ポートフォリオ見直しの示唆

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本田技研工業(ホンダ)が、米国ミシガン州でGMと共同運営してきた燃料電池(FC)システムの生産を終了する方針であることが報じられました。この動きは、電動化戦略が加速する中での経営資源の「選択と集中」を象徴するものであり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。

米国での燃料電池システム合弁生産を終了

報道によれば、ホンダはゼネラルモーターズ(GM)との合弁会社「Fuel Cell System Manufacturing, LLC(FCSM)」における燃料電池システムの生産を終了するとのことです。この合弁会社は、燃料電池車(FCV)の心臓部であるFCシステムを量産し、コストを低減することを目的として2017年に設立されました。両社の知見を持ち寄り、次世代のクリーンエネルギー車の普及を目指した戦略的な取り組みとして注目されていました。

今回の生産終了は、単なる一拠点の閉鎖ではなく、自動車業界を取り巻く事業環境の大きな変化を背景とした、戦略的な判断であると見られます。特に、世界的なバッテリー式電気自動車(BEV)へのシフトが想定以上の速度で進む中、FCV市場の立ち上がりが緩やかであることが、今回の決定に影響したと考えられます。

背景にある「選択と集中」という経営判断

製造業の経営において、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)をどこに配分するかは、常に重要な課題です。今回のホンダの決断は、まさにこの「選択と集中」を実践したものと言えるでしょう。

FCVは、水素を燃料とし、走行時に水しか排出しない究極のエコカーとして期待されています。しかし、車両価格の高さや水素ステーションといったインフラ整備の遅れなど、本格的な普及には依然として課題が残ります。一方で、BEVは各国政府の強力な後押しもあり、市場が急速に拡大しています。このような状況下で、将来の大きな収益源としてより確実性の高いBEV関連技術やバッテリー生産体制の構築に、優先的に資源を投下するという経営判断は、多くの企業にとって現実的な選択肢です。今回の決定も、ホンダが掲げる「製品ライフサイクル全体での環境負荷ゼロ」という大きな目標達成に向けた、ポートフォリオの見直しの一環と捉えることができます。

FCV技術開発の火は消えず – 新たな応用分野への展開

注意すべきは、今回の「生産終了」が、ホンダの「FCV技術開発からの撤退」を意味するものではないという点です。ホンダは長年にわたりFCVの研究開発をリードしてきた企業であり、その技術的蓄積は大きな財産です。

今後は、乗用車だけでなく、よりFC技術の特性が活きる領域、例えば長距離輸送を担う大型商用車(トラック)や建設機械、あるいは定置用の発電システムといった新たな応用分野に、開発の軸足を移していく可能性が考えられます。実際に多くの企業が、乗用車以外の領域で水素技術の活用を模索しています。これは、一度開発したコア技術を、市場のニーズに合わせて異なる製品やサービスに応用展開していく、製造業の王道とも言える戦略です。

日本の製造業への示唆

今回のホンダの決断は、日本の製造業に携わる我々にとっても、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. 事業ポートフォリオの継続的な見直し:
市場環境や技術トレンドは常に変化します。かつて有望とされた事業や技術も、状況に応じて優先順位を見直す勇気が必要です。定期的に自社の事業ポートフォリオを評価し、経営資源の再配分を検討する仕組みが、持続的な成長には不可欠です。

2. アライアンス戦略の柔軟な運用:
他社との合弁事業や協業は、開発スピードの向上やコスト削減に有効な手段です。しかし、互いの事業戦略が変われば、関係が変化する可能性も常に念頭に置く必要があります。提携の開始時だけでなく、状況変化に応じた見直しや「出口戦略」まで含めた柔軟なアライアンスマネジメントが求められます。

3. コア技術の維持と応用展開:
特定の製品の生産を終了したとしても、その背景にある基盤技術やノウハウは企業の競争力の源泉です。すぐに収益化が難しい技術であっても、研究開発を継続し、新たな市場や応用先を常に模索し続ける視点が、将来の事業の柱を育てる上で極めて重要になります。

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