ポルトガルのエネルギー大手Galp社の事業再編に学ぶ、製造業における「選択と集中」

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ポルトガルの大手エネルギー企業Galp社が、精製事業を分離し、資源探査・生産といった上流事業に注力する戦略を打ち出しました。この動きは、事業ポートフォリオの見直しという、日本の製造業にとっても重要な経営課題を考える上で、多くの示唆を与えてくれます。

エネルギー大手の戦略転換:「下流」から「上流」へ

ポルトガルの総合エネルギー企業であるGalp社が、石油精製事業(ダウンストリーム)をスピンオフ(事業分離・独立)させ、ブラジルやナミビア沖での原油・天然ガスの探査・生産(アップストリーム)に経営資源を集中させる方針を固めたと報じられました。これは、自社の事業ポートフォリオを大胆に見直し、より収益性と成長性が見込める領域に注力する「選択と集中」の典型的な事例と言えるでしょう。

石油業界における「上流(アップストリーム)」とは、油田やガス田の探査・開発・生産を指し、「下流(ダウンストリーム)」は原油の精製や石油製品の販売を指します。これを製造業のサプライチェーンに置き換えてみれば、素材開発や基幹部品の製造が「上流」に、そしてそれらを組み立てて最終製品とし、市場に供給するのが「下流」に相当すると考えられます。Galp社は、競争が激しく利益率が圧迫されやすい下流の精製事業よりも、資源権益という大きな価値を生む可能性のある上流事業にこそ、自社の将来を賭けるという経営判断を下したわけです。これは、装置産業であるエネルギー業界の特性を色濃く反映した動きです。

事業ポートフォリオ見直しの背景

このような事業の選択と集中は、企業が持続的に成長していく上で避けては通れない経営課題です。市場環境の変化、技術革新のスピード、そして競合の動向などを踏まえ、自社の強みが最大限に発揮できる事業領域はどこなのかを常に見極める必要があります。特に、脱炭素化という世界的な潮流は、Galp社のようなエネルギー企業にとって、既存のビジネスモデルを根底から見直す大きなきっかけとなったはずです。

日本の製造業においても、状況は同じです。長年にわたり多角化を進めてきた結果、多くの事業を抱える企業は少なくありません。しかし、それら全ての事業が将来にわたって収益を上げ続けられるとは限りません。むしろ、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が分散し、かえって企業全体の競争力を削いでしまう危険性すらあります。どの事業を成長させ、どの事業を維持し、そしてどの事業から撤退・売却するのか。この厳しい判断を下すことが、経営層には求められています。

自社の「上流」を見極めることの重要性

Galp社の事例から我々が学ぶべきは、自社にとっての「上流」、すなわち競争優位性の源泉は何かを明確に定義することの重要性です。それは、他社には真似のできない独自の材料技術かもしれませんし、超精密な加工技術、あるいは長年の経験に裏打ちされた生産管理ノウハウかもしれません。一方で、コモディティ化が進み、価格競争に陥りやすい「下流」の組立工程などに固執していないか、自問する必要があるでしょう。

もちろん、事業の切り離しは、雇用やサプライヤーとの関係など、多くの痛みを伴う難しい決断です。しかし、中長期的な視点に立てば、こうした外科手術的な改革こそが、企業を次の成長ステージへと導く原動力となり得ます。Galp社の決断は、事業環境の非連続的な変化に直面したとき、企業がいかに大胆かつ迅速に自己変革を遂げるべきかを示す好例と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のGalp社の戦略転換は、日本の製造業に携わる我々にとっても、決して他人事ではありません。以下の三つの視点から、自社の経営や現場運営を振り返るきっかけとすべきです。

  • 事業ポートフォリオの冷静な評価:自社の各事業を「収益性」と「成長性」の軸で評価し、将来のコア事業とすべき領域はどこかを明確にすることが不可欠です。過去の成功体験や社内のしがらみにとらわれず、客観的なデータに基づいた判断が求められます。
  • 自社の強み(コアコンピタンス)の再定義:自社の技術やノウハウの中で、サプライチェーンの「上流」として他社に対する優位性を確立できるものは何かを再定義する必要があります。その強みをさらに伸ばすための投資を重点的に行うべきです。
  • 経営資源の戦略的再配分:事業の優先順位付けに基づき、人材、設備投資、研究開発費といった限りある経営資源を、成長領域へ大胆に再配分する決断が必要です。全方位的な資源配分は、結果としてどの事業も中途半端になるリスクを孕んでいます。

グローバルな競争環境が激しさを増す中、自社の進むべき方向を見定め、そこに力を集中させる戦略の重要性はますます高まっています。Galp社の事例は、その普遍的な原則を改めて我々に示唆してくれます。

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