世界の政財界のリーダーが集うダボス会議では、製造業の未来も重要な議題となります。インドの大手製造業 Bharat Forge社の幹部が語った内容から、米国の政治動向がサプライチェーンに与える影響と、その中で存在感を増すインドの戦略について考察します。
ダボス会議で語られた製造業の新たな潮流
世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称「ダボス会議」は、世界が直面する課題について議論する重要な場です。近年、地政学的な緊張の高まりを受け、グローバル・サプライチェーンの再編は製造業にとって避けて通れないテーマとなっています。そのような中、インドを代表する鍛造・自動車部品メーカーであるBharat Forge社の副MD、アミット・カリヤニ氏の発言が注目されています。同氏の視点を通じて、世界の製造業が置かれた現状と今後の方向性を読み解くことができます。
米国の政治動向と関税政策という不確実性
カリヤニ氏が言及したテーマの一つが、米国の次期大統領選と、それに伴う関税政策の変更リスクです。特にトランプ前大統領の再選の可能性は、世界中の製造業にとって大きな不確実性要因として認識されています。過去の政権下で見られたような保護主義的な通商政策が再び強化されれば、特定の国だけでなく、グローバルに展開されたサプライチェーン全体に影響が及ぶ可能性があります。
これは、我々日本の製造業にとっても他人事ではありません。特定の国や地域に依存したサプライチェーンは、こうした政治的な変動に対して脆弱です。改めて自社の調達・生産ネットワークを点検し、リスクを分散させる「チャイナ・プラスワン」に留まらない、より多角的な拠点戦略の重要性が増していると言えるでしょう。
「世界の工場」を目指すインドの機会と戦略
一方で、カリヤニ氏はこうした国際情勢の変化を、インドの製造業にとっての「好機(Opportunity)」と捉えています。地政学的なリスク分散の受け皿として、また巨大な国内市場を背景に、インドは「世界の工場」としての地位を確立しようと国を挙げて取り組んでいます。政府主導の「Make in India」政策などがその代表例です。
注目すべきは、インドが単なる低コストの生産拠点からの脱却を図っている点です。カリヤニ氏が言及した「防衛」「無人システム(ドローンなど)」「AI」といった分野は、高度な技術力と信頼性が求められる高付加価値領域です。Bharat Forge社のような企業がこうした分野へ積極的に投資している事実は、インドの製造業が質的な変化を遂げつつあることを示唆しています。日本の製造業としては、インドを単なる市場や委託先としてだけでなく、技術力を持つ競争相手、あるいは協業パートナーとして、その実力を正しく評価する必要があるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の議論から、日本の製造業が留意すべき点を以下に整理します。
1. サプライチェーンの強靭化と地政学リスクへの常時備え
米国の政策をはじめとする地政学リスクは、もはや一時的な懸念事項ではありません。サプライチェーンの脆弱性を常に評価し、特定の国への依存度を下げ、調達先や生産拠点の多角化を継続的に検討することが、事業継続の鍵となります。
2. インド製造業の実力とポテンシャルの再評価
インドは、コスト競争力に加え、防衛やAIといった先端技術分野でも着実に実力をつけています。安価な労働力という一面的な見方ではなく、高度な技術開発能力を持つパートナー、あるいは手ごわい競争相手として、その動向を注視し、新たな協力や競争のあり方を模索すべき時期に来ています。
3. 高付加価値領域での競争力強化
グローバルな競争の主戦場は、コストから技術や付加価値へとシフトしています。インド企業の動きは、その潮流を象徴しています。我々日本の製造業も、自社の持つ高い技術力や品質管理能力を活かし、模倣が困難な高付加価値製品・サービスの開発・提供をさらに加速させる必要があります。


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