インダストリアル・エンジニアリング(IE)と生産管理は、製造業における効率化とムダ削減の根幹をなす分野です。デジタル技術が注目される現代においても、その基本理念の重要性は揺らぐことなく、むしろ複雑化する事業環境において再評価されるべきものと言えるでしょう。
インダストリアル・エンジニアリング(IE)とは何か
インダストリアル・エンジニアリング(Industrial Engineering: IE)とは、人、モノ、設備、情報といった生産システムを構成する要素を最適に組み合わせ、そのシステム全体の生産性を最大化するための工学的な手法の体系です。日本語では「生産工学」や「管理工学」と訳されることもあります。その目的は、科学的なアプローチを用いて「ムリ・ムダ・ムラ」を徹底的に排除し、最も効率的で経済的な生産方法を追求することにあります。
日本の製造現場で長年活用されてきた「IE7つ道具」に代表されるように、工程分析、稼働分析、動作研究、時間研究といった具体的な手法を用いて現状を「見える化」し、客観的なデータに基づいて改善を進めていくのが特徴です。例えば、作業者の動きを細かく分析して不要な動作をなくしたり(動作経済の原則)、各作業の標準時間を設定して生産計画の精度を高めたりすることは、IEの基本的な活動と言えます。
生産管理の役割と目的
一方、生産管理(Production Management)は、定められた品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)を達成するために、生産活動全体を計画・実行・統制する管理活動を指します。顧客からの注文や需要予測に基づき、「何を、いつまでに、いくつ作るか」という生産計画を立案し、その計画通りに生産が進むよう、資材の調達から工程の進捗、在庫の管理、製品の出荷までを一元的に管理します。
生産管理は、生産計画、工程管理、資材管理、品質管理、原価管理といった複数の機能から成り立っています。IEが個々の作業や工程の効率を追求する「ミクロ」な視点であるのに対し、生産管理は工場全体のモノの流れや情報の流れを最適化する「マクロ」な視点を持つ活動と捉えることができます。
IEと生産管理の密接な関係
IEと生産管理は、それぞれ独立した分野ではなく、相互に深く関連し合うことで初めてその真価を発揮します。IEによる工程改善や標準時間の設定がなければ、信頼性の高い生産計画を立てることは困難です。例えば、IEを用いて設定された正確な標準時間は、生産能力の算出、人員計画の策定、製品原価の見積もりなど、生産管理におけるあらゆる意思決定の基礎となります。
逆に、生産管理を通じて日々蓄積されるデータ、例えば生産実績、稼働率、不良率、納期遵守率といった情報は、IE活動における次の改善テーマを見つけ出すための重要なインプットとなります。両者は、現場改善と工場運営という車の両輪のように、互いに情報をフィードバックし合いながら、生産システム全体のパフォーマンスを継続的に向上させていく関係にあるのです。
日本の製造業への示唆
昨今、IoTやAIといったデジタル技術の導入(DX)が製造業の大きなテーマとなっています。しかし、これらの先進技術を導入する前に、今一度立ち返るべきなのがIEと生産管理の基本です。ここでは、日本の製造業が留意すべき点を整理します。
1. 基本への回帰とプロセスの標準化
どのような高度なシステムも、その土台となるプロセスの標準化ができていなければ効果を発揮しません。まずはIEの手法を用いて現状の作業や工程を徹底的に分析し、ムダを排除した上で標準を確立することが、DX成功の第一歩となります。勘や経験に頼った属人的な作業が残ったままでは、データの信頼性が揺らぎ、システムは期待通りに機能しないでしょう。
2. データ活用のための土台作り
精度の高い生産スケジューラやMES(製造実行システム)を導入しても、インプットとなる標準時間や工程順序といったマスタデータが不正確であれば、意味のある結果は得られません。地道なIE活動を通じて現場の実態に即したデータを整備することこそが、真のデータ駆動型経営への近道です。
3. 組織横断的な人材育成
IEや生産管理の知識は、一部の専門家だけのものではありません。現場のリーダーから工場の管理者、さらには経営層に至るまで、階層を問わず共有されるべき「共通言語」です。自社の生産活動を科学的に理解し、論理的に改善を議論できる人材を育成することは、企業の競争力を維持・向上させる上で不可欠な投資と言えます。
4. サプライチェーン全体への視点の拡張
これまで工場内で閉じがちだったIEや生産管理の視点を、サプライヤーから顧客に至るサプライチェーン全体へと拡張することが求められます。自社工程の最適化だけでなく、前後の工程との連携を最適化することで、リードタイムの短縮や在庫削減など、より大きな成果を生み出すことが可能になります。


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