米国の製造業、特に自動車産業の中心地であるミシガン州では、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)が地域経済の生命線と見なされています。本記事では、現地の報道を元に、通商協定がサプライチェーンと生産活動に与える影響を考察し、日本の製造業が学ぶべき点を解説します。
ミシガン州経済と製造業の深い結びつき
かつて「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」とも呼ばれた米国中西部に位置するミシガン州ですが、今なお米国経済、特に製造業において中心的な役割を担っています。デトロイト市を中心に自動車産業の一大集積地であり、数多くの完成車メーカーや部品サプライヤーが生産拠点を構えています。その経済活動は巨額の輸出を生み出し、質の高い雇用を地域に提供する原動力となっています。この地域には日本の自動車・部品メーカーも多数進出しており、その動向は決して対岸の火事ではありません。
サプライチェーンの基盤となるUSMCA
ミシガン州の製造業、とりわけ国境を越えて複雑なサプライチェーンを構築している自動車産業にとって、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)は事業運営の基盤そのものと言えます。前身のNAFTA(北米自由貿易協定)から引き継がれたこの協定は、3国間の貿易における関税を原則撤廃し、部品や製品がスムーズに国境を越えることを可能にしています。エンジンはメキシコで、トランスミッションはカナダで、そして最終組立は米国の工場で、といったように、一つの製品が完成するまでに何度も国境を越えることも珍しくありません。この緊密に連携したサプライチェーンは、USMCAという安定したルールがあってこそ成り立っています。
特に、USMCAでは自動車に関する原産地規則がNAFTA時代よりも厳格化されました。例えば、完成車が域内で無関税の扱いを受けるためには、一定比率以上の部品を北米3国内で調達しなければならないと定められています。これは、サプライチェーンの域内回帰を促す側面も持ち合わせており、各社は規則を遵守するための調達戦略の見直しを迫られました。このように、通商協定の細かなルール変更は、生産・調達の現場に直接的な影響を及ぼします。
2026年の協定見直しに向けた視線
USMCAには、発効から6年ごとに協定内容を見直すという条項が盛り込まれており、その最初の見直しが2026年に予定されています。この「見直し」が、現地の製造業関係者の間で一つの懸念材料となっています。今後の政治情勢によっては、協定の安定性が揺らぎ、事業の前提が覆されるリスクもゼロではないからです。通商協定を巡る不確実性は、企業の長期的な設備投資や研究開発、雇用計画といった重要な意思決定を躊躇させる要因となり得ます。海外に生産拠点を持つ企業にとって、進出先の通商政策や政治動向は、常に注視すべき重要な経営リスクの一つなのです。
日本の製造業への示唆
今回の米ミシガン州の事例は、海外で事業を展開する日本の製造業にとっても多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 通商協定はサプライチェーン戦略の前提条件
海外での生産活動は、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)といった通商協定の枠組みの上に成り立っています。特に、国境をまたいで部品を融通し合うサプライチェーンを構築している場合、協定の内容(関税率、原産地規則など)はコスト構造や調達戦略に直結します。USMCAの事例は、この関係性の重要さを改めて示しています。
2. 政治・外交リスクの継続的な監視
貿易協定は、各国の政治・外交情勢によって変化する可能性があります。2026年のUSMCA見直しのように、定期的な見直し条項が設けられている場合や、政権交代が予想される場合などは特に注意が必要です。海外拠点を持つ企業は、現地の政治動向や通商政策に関する情報を常に収集し、事業への影響をシナリオ別に分析する体制が求められます。
3. 原産地規則への実務的な対応力
近年、保護主義的な潮流の中で、貿易協定における原産地規則はより複雑かつ厳格になる傾向があります。USMCAの自動車分野の規則はその典型例です。自社製品が協定の恩恵(特恵関税)を受けるための条件を正確に把握し、サプライヤーからの部品調達を含めたトレーサビリティを確保する管理体制の構築は、海外事業の収益性を左右する重要な実務となります。


コメント