アディティブ・マニュファクチャリング(AM)業界の人材需要が、研究開発(R&D)から生産関連職種へと大きくシフトしていることが、近年の調査で明らかになりました。この変化は、AM技術が試作や実験の段階を越え、いよいよ本格的な量産技術として定着し始めたことを示唆しています。
研究開発から生産現場へ、AM人材需要の構造変化
英国の人材紹介会社Alexander Daniels Globalが発表した年次給与調査レポートによると、アディティブ・マニュファクチャリング(AM、いわゆる3Dプリンティング)業界において、人材採用の重点が研究開発(R&D)職から生産関連職へと移行していることが示されました。かつては材料開発やプロセス開発を担う研究者・開発者の需要が中心でしたが、近年は生産技術者、品質管理担当者、装置オペレーターといった、実際の「ものづくり」を支える人材の需要が顕著に高まっています。それに伴い、これらの生産関連職種の給与水準も上昇傾向にあると報告されています。
この動向は、AM技術が産業界において新たなフェーズに入ったことを明確に示しています。航空宇宙や医療分野などの先進的な領域で始まった最終製品への適用が、より広い産業分野へと拡大し、試作品や特殊部品の製造に留まらない「量産手段」としての地位を確立しつつあることの証左と言えるでしょう。日本の製造現場では、AMはまだラピッドプロトタイピングのツールという認識が根強いかもしれませんが、グローバルでは最終製品の製造を担う主要技術としての活用が本格化しているのです。
「作る」ための技術と体制構築が急務に
AMが生産技術として定着するにつれて、求められるスキルセットも変化します。これまでは新しい造形方式や材料を開発する「0を1にする」能力が重視されてきましたが、これからは定められた品質、コスト、納期(QCD)を遵守しながら安定的に生産する「1を100にする」ための知見が不可欠となります。具体的には、AM特有の設計手法(DfAM: Design for Additive Manufacturing)、造形パラメータの最適化、後処理工程の標準化、そして何よりも一貫した品質を保証する検査・管理体制の構築が重要です。これらは、従来の射出成形や切削加工の生産現場で我々が日々向き合っている課題と本質的に同じものです。
この変化は、AMを導入する企業にとって、単に高価な装置を導入するだけでは不十分であることを意味します。装置を安定稼働させるための保守体制、オペレーターの教育、そして生産ライン全体としての効率を最大化するための生産管理手法など、工場運営全体の視点からAMを位置づけ、体制を構築していく必要があります。まさに、これまでの製造業が培ってきた生産技術や品質管理のノウハウが、この新しい技術領域でも活かされるべき段階に来ていると言えます。
日本の製造業への示唆
今回の調査結果は、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. AMを「生産技術」として再評価する時期
AMを単なる試作ツールと捉えるのではなく、自社の製品ポートフォリオやサプライチェーンにおいて、量産技術として活用できないかを具体的に検討することが求められます。特に、多品種少量生産や、複雑形状による高付加価値化、サプライチェーンの短縮化といったテーマにおいて、AMは強力な武器となり得ます。
2. 生産を担う人材の育成・確保が鍵
AMによる量産を実現するためには、装置を使いこなすオペレーターはもちろん、AMプロセス全体を理解し、品質と生産性を管理できる生産技術者や品質保証担当者が不可欠です。社内での人材育成計画を策定するとともに、必要に応じて外部からの人材獲得も視野に入れるべきでしょう。
3. 品質管理体制の構築という新たな課題
AM製品の品質は、材料、設計、造形パラメータ、後処理など無数の要因に左右されます。量産適用にあたっては、これらのプロセス全体を管理し、製品のトレーサビリティを確保し、品質のばらつきを抑えるための管理手法の確立が急務となります。これは、従来の製造業における品質管理とは異なるアプローチが必要となる可能性があり、早期の取り組みが求められます。
AM技術の進化は、製造業のあり方を根底から変える可能性を秘めています。この大きな潮流を的確に捉え、自社の強みと融合させていくことが、今後の競争力を維持・強化する上で重要な鍵となるでしょう。


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