インドの接着剤メーカー「HP Adhesives」社の工場で火災が発生したとの報道がありました。幸いにも人的被害はなかったものの、生産活動に影響が出ている模様です。この一件は、対岸の火事ではなく、我々日本の製造業が自社のリスク管理体制を再点検する上で、多くの示唆を与えてくれます。
インドの接着剤工場で発生した火災事故
報道によると、インドのマハラシュトラ州にあるHP Adhesives社の製造工場で火災が発生しました。現時点で人的被害は報告されていませんが、工場の一部が焼損し、生産に支障が出ているとのことです。同社は、物的損害と事業中断をカバーする十分な保険に加入しており、速やかに保険金請求の手続きを開始したと発表しています。同時に、生産再開に向けた復旧作業も進められている模様です。
改めて問われる、化学工場における安全管理の徹底
今回火災が発生したのは接着剤工場であり、引火性の高い溶剤や原料を日常的に取り扱っていたと推察されます。こうした化学プラントでは、静電気対策、防爆設備の維持管理、危険物保管方法の遵守、定期的な防災訓練など、多岐にわたる厳格な安全管理が求められます。日本の製造現場においても、5S活動の徹底やヒヤリハット活動などを通じて安全意識の向上に努めていますが、設備の老朽化や作業の慣れが思わぬ事故に繋がる可能性は常に存在します。自社の安全管理体制が形骸化していないか、今一度、現場レベルで見直す良い機会といえるでしょう。
事業継続の観点から見た「保険」の役割
今回のHP Adhesives社の発表で注目すべきは、「十分な保険に加入している」と迅速に公表した点です。これは、株主や取引先といったステークホルダーの不安を和らげるための重要な情報開示です。工場火災のリスクマネジメントにおいて、保険は最後の砦となります。ただし、その内容を精査しておくことが不可欠です。建屋や機械設備といった物的損害を補償する「火災保険」だけでなく、生産停止期間中の逸失利益や事業継続に必要な追加費用をカバーする「利益保険(事業中断保険)」への加入は、財務的なダメージを最小限に抑える上で極めて重要です。自社が加入している保険の補償範囲が、現在の事業規模やリスクの実態に見合っているか、定期的に確認することが望まれます。
サプライチェーンへの影響と代替生産
一拠点の生産停止は、自社だけの問題に留まりません。顧客への製品供給が滞れば、サプライチェーン全体に多大な影響を及ぼし、信用失墜に繋がります。特に、特定拠点でしか生産できない特殊な製品を扱っている場合、そのリスクはさらに高まります。このような事態を想定し、事業継続計画(BCP)において、代替生産のシナリオを具体的に検討しておく必要があります。他の自社工場での代替生産の可能性、外部委託先の確保、あるいは重要製品の安全在庫水準の見直しなど、平時から複数の選択肢を準備しておくことが、有事の際の迅速な復旧を可能にします。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. 安全管理体制の再点検と実効性の確認:
日々の安全パトロールや点検業務がマンネリ化していないか、改めて見直すことが重要です。特に海外拠点においては、現地の法規制や従業員の安全文化を考慮した、よりきめ細やかな管理体制の構築が求められます。定期的なリスクアセスメントを実施し、潜在的な危険源を特定・評価・対策するサイクルを確実に回す必要があります。
2. BCP(事業継続計画)の具体性と現実性の追求:
「書類上のBCP」で終わらせず、実効性のある計画にすることが肝要です。具体的には、保険カバレッジの妥当性評価(物的損害だけでなく逸失利益も含むか)、代替生産拠点との連携訓練、主要サプライヤーの被災を想定した調達先の多重化、緊急時における顧客へのコミュニケーション手順などを、より具体的に計画に落とし込むべきでしょう。
3. サプライチェーン全体を俯瞰したリスク評価:
自社の拠点だけでなく、ティア1、ティア2の主要サプライヤーの立地やBCPの整備状況を把握することも、サプライチェーンの強靭化には不可欠です。一社の被災が、自社の生産ラインを止めかねないという認識を持ち、サプライヤーと連携したリスク管理体制を構築することが望まれます。


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