カナダの都市サンダーベイの製造業は、造船から航空機、そして鉄道車両へと、時代の要請に応じてその姿を大きく変えてきました。この歴史は、市場の変化にしなやかに対応し、事業を継続していくための重要な示唆を、日本の製造業に与えてくれます。
時代と共に変化する製品群
カナダ・オンタリオ州の都市、サンダーベイの製造業の歴史は、非常に示唆に富んでいます。その生産品目は、造船、トラクター、第二次世界大戦中の戦闘機(ホーカー・ハリケーン)、そして現代の地下鉄車両と、多岐にわたります。これらは単なる製品リストではなく、一つの地域製造業が、時代の大きな変化の波を乗り越えてきた証左と言えるでしょう。
造船、航空機、鉄道車両では、それぞれ求められる技術、品質管理基準、サプライチェーンが大きく異なります。例えば、船体に使われる厚板の溶接技術と、航空機の機体に使われる軽合金の精密な接合技術は、似て非なるものです。品質保証の観点でも、それぞれの業界特有の規格や認証が存在します。サンダーベイの工場がこれらの異なる製品群の製造を手掛けてきたという事実は、その企業が極めて高い技術的柔軟性と適応力を持っていたことを物語っています。
事業ポートフォリオ転換という視点
この事例は、経営の視点から見れば、事業ポートフォリオの巧みな転換と捉えることができます。ある事業の需要が減少しても、別の分野で新たな需要を取り込むことで、企業全体としての存続と成長を図ってきたのでしょう。これは、特定の産業や顧客に深く依存する日本の多くの製造業、特に地方の中核企業にとって、学ぶべき点が多いのではないでしょうか。
重要なのは、全くの異分野に飛び込んだわけではない、ということです。造船、航空機、鉄道車両は、いずれも「大型の構造物を組み立てる」という共通の技術基盤の上に成り立っています。溶接、板金、塗装、配線、組み立てといった中核となる生産技術(コア・コンピタンス)を維持・発展させながら、それを応用できる新たな市場を模索した結果が、このような製品群の変遷に繋がったと推察されます。自社の持つ技術の本質を見極め、その応用可能性を広く探ることが、変化の時代を生き抜く鍵となります。
地域における製造業の役割
サンダーベイという一都市において、これだけの規模の製造業が長年にわたり存在してきたことは、地域の経済や雇用に多大な貢献をしてきたことを意味します。事業を転換しながら生産を継続することは、単に一企業の利益追求だけでなく、地域社会に対する責任を果たすことでもあります。
日本の製造業もまた、多くの工場が地方都市に根差し、地域経済の重要な担い手となっています。外部環境の変化が激しい現代において、事業をいかにして持続させ、地域の雇用を守っていくか。この問いに対する一つの答えが、サンダーベイの事例に見られるような、中核技術を活かした柔軟な事業転換なのかも知れません。
日本の製造業への示唆
この短い記事から、私たちは以下のような実務的な示唆を得ることができます。
1. 中核技術の再定義と応用展開:
自社の強みである生産技術を「特定の製品を作るための技術」と限定的に捉えるのではなく、より汎用的な「基盤技術(例えば、精密加工、溶接、組み立て)」として再定義することが重要です。その上で、その技術が応用可能な新しい市場や製品分野を常に模索する姿勢が求められます。
2. 市場変化への柔軟な対応力:
自動車業界のEVシフトのように、主力事業を取り巻く環境は常に変化します。特定の製品や業界への依存度が高い企業ほど、リスク分散の観点から、事業ポートフォリオの見直しを継続的に行う必要があります。既存の設備や人材を活かせる周辺領域への展開は、現実的な選択肢となり得ます。
3. 多能工化と技術継承:
異なる製品の製造を経験することは、従業員のスキルセットを多様化させ、企業のレジリエンス(変化への対応力)を高めます。一つの製品に特化した技能だけでなく、多様な要求に応えられる多能工の育成は、不確実な未来への備えとなります。
4. 地域社会との共存:
企業の存続は、地域経済や雇用の維持と密接に結びついています。事業の転換や多角化は、経営戦略であると同時に、地域社会に対する責任を果たすための重要な手段でもある、という視点を持つことが大切です。


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