一見、製造業とは無関係に思える劇場の求人情報。しかしその職務内容には、工場の工具・治具管理や多能工化を考える上で、興味深い示唆が含まれています。異業種の事例から、自社の現場管理を見つめ直すヒントを探ります。
「設計・製作者」と「在庫管理者」を兼ねる人材
今回取り上げるのは、米国の劇場における「小道具デザイナー兼在庫管理者」の求人情報です。この職務は、舞台で使用する小道具のデザイン・製作と、その保管・管理という二つの役割を一人で担うものです。製造業の言葉で言えば、特注品の設計・製作者が、自社で保有する工具や治具、金型といった「生産資産」の管理責任者も兼務する、といったイメージに近いかもしれません。
日本の多くの工場では、設計、製造、そして工具等の管理は、それぞれ異なる部門や担当者が担うのが一般的です。しかし、この事例のように一人の担当者が「作る」ことと「管理する」ことを一貫して行う体制には、注目すべき点があると考えられます。
小道具管理は、工場の工具・治具管理そのものである
劇場にとって、多種多様な小道具は公演の品質を左右する重要な「資産」です。必要な時に、演出家の意図に沿ったものが、最適な状態で、すぐに出てくる必要があります。これは、製造現場における工具や治具、測定器の管理と全く同じ本質を持っています。つまり、「生産に必要な資産を、いつでも最高のパフォーマンスで使えるように維持・管理する」という目的です。
自ら小道具をデザインし、製作する人間が在庫管理を行う最大のメリットは、そのモノの価値や特性を深く理解している点にあります。単なる員数合わせや棚卸しに留まらず、個々の道具の劣化状態を的確に判断し、修理やメンテナンスの必要性を察知できます。さらには、保管方法の改善や、より使いやすい道具への改良といった、プロアクティブな改善活動にも繋がりやすいでしょう。これは、現場の作業者が工具管理や5S活動を主導する意義と通じるものがあります。
部門横断的な視点を持つ人材の価値
この求人では、演出家、デザイナー、プロダクションマネジメント(制作進行管理)といった、様々な立場の人々と密に連携することが求められています。企画側(演出家)の要求を汲み取ってモノを形にし(デザイン・製作)、同時に制作全体のスケジュールや予算(プロダクションマネジメント)も考慮しながら、資産(在庫)を管理する。これは、極めて高度で部門横断的な役割です。
製造業においても、設計部門の意図を深く理解した製造担当者や、製造現場の制約を熟知した設計者の存在は、開発リードタイムの短縮や品質向上に不可欠です。一人の人間が複数の専門領域にまたがる知見を持つことは、組織内のコミュニケーションを円滑にし、迅速な意思決定を可能にします。特に、変化への迅速な対応が求められる現代において、こうした多能工的な人材の価値はますます高まっていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
この異業種の事例から、私たちは以下の点を再確認することができます。
1. 生産資産管理の再定義
工具、治具、金型などを単なる「備品」として捉えるのではなく、品質と生産性を生み出すための重要な「資産」であると再認識することが重要です。その資産価値を最大限に引き出すための管理とは何か、単なる数量管理に終わっていないか、現場で見直すきっかけになるかもしれません。
2. 「作る」と「管理する」スキルの融合
資産を実際に「使う」あるいは「作る」人間が、その「管理」にも深く関与する体制は、より質の高い管理と継続的な改善を生み出す可能性があります。例えば、機械のオペレーターが日常点検だけでなく、予備品管理の一部を担う、あるいは保全部門と連携して改善活動を行うといった取り組みは、設備の安定稼働に大きく貢献するでしょう。
3. 多能工化による組織能力の向上
一人の担当者が複数の役割を担うことは、業務効率化だけでなく、組織全体の連携をスムーズにする効果も期待できます。個々の従業員のスキルマップを整理し、隣接する領域の業務を経験させるなど、意図的に多能工化を進めることは、変化に強いしなやかな組織作りへと繋がります。
一見、全く異なる世界の事例であっても、その業務の本質を紐解くことで、自社の課題解決に繋がる普遍的なヒントが見つかることがあります。固定観念にとらわれず、広い視野で自社の在り方を見つめ直す姿勢が、今後ますます重要になるのではないでしょうか。


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