カナダの製造業団体が、中国とのEV関連合意に懸念を表明し、波紋を呼んでいます。この動きは、EVシフトが加速する中で、国際競争と国内産業保護のジレンマを浮き彫りにするものであり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
カナダ製造業に広がる「不穏な空気」
カナダの先進製造業を代表する団体「Trillium Network for Advanced Manufacturing」の幹部が、中国製EVの関税引き下げを示唆する政府の動きに対し、「その合意は不安を感じさせる(The agreement makes me feel uneasy)」と率直な懸念を表明しました。これは、EVシフトという大きな潮流の中で、各国の製造業が直面する厳しい現実を象徴する出来事と言えるでしょう。
この発言の背景には、圧倒的な価格競争力を持つ中国製EVが国内市場に流入することへの強い警戒感があります。特に、カナダの自動車産業の中心地であるオンタリオ州では、完成車メーカーだけでなく、数多くの部品サプライヤーや金型メーカーが集積しています。安価な完成車の輸入は、こうした国内のサプライチェーン全体を揺るがしかねない、というわけです。
懸念の背景にある国内産業への影響
製造業の現場から見て、今回の懸念にはいくつかの重要な論点が含まれていると考えられます。第一に、公正な競争条件が担保されるのかという点です。中国のEV産業は、長年にわたる手厚い国家補助によって巨大な生産能力とコスト競争力を獲得した側面があります。こうした背景を持つ製品と、国内のメーカーが同じ土俵で競争することは、極めて困難な挑戦となります。
第二に、政府の産業政策との整合性です。カナダ政府は、国内でのバッテリー工場やEV生産拠点の誘致に多額の投資を行っています。国内のEV生産基盤を育成しようとしながら、一方で安価な輸入品の流入を容易にするような動きは、政策として矛盾しているのではないか、という疑念が産業界から上がるのは自然なことです。これは、国内の雇用や技術基盤の維持という、国家レベルの課題にも直結します。
対岸の火事ではない日本の課題
このカナダの事例は、日本の我々にとっても決して対岸の火事ではありません。現在、日本市場ではまだ中国製EVの存在感は限定的ですが、今後、性能やブランド力を高めた製品が本格的に参入してくる可能性は十分に考えられます。その時、日本の自動車産業、そしてそれに連なる広範なサプライチェーンは、どのような影響を受けるでしょうか。
この問題は、単に完成車メーカーだけのものではありません。エンジン部品から駆動系部品へと移行する中で、事業変革を迫られている部品メーカーはもちろん、生産設備や素材、ソフトウェアに至るまで、ものづくりに関わるあらゆる企業が、この新しい競争の構図を直視する必要があります。価格競争力だけでなく、品質、技術、そして安定供給といった、自社の提供価値を改めて問い直す時期に来ていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のカナダの事例から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. グローバルな競争環境の再認識: EVシフトは、単なる技術の転換ではなく、国際的な競争のルールそのものを変えつつあります。特に中国メーカーの台頭は、価格だけでなく、開発スピードやサプライチェーンのあり方にも大きな影響を与えています。この現実を正確に把握することが、すべての戦略の出発点となります。
2. サプライチェーン全体での影響評価: 特定の製品の輸入動向が、自社の事業にどのような影響を及ぼすか、サプライチェーン全体を俯瞰して評価することが不可欠です。顧客のさらにその先の市場動向を読み解き、間接的なリスクを洗い出す視点が求められます。
3. 政策動向の注視と自社戦略の構築: 各国の関税政策や補助金制度は、事業環境を大きく左右します。こうした外部環境の変化を常に監視しつつも、それに過度に依存しない、自社の技術力や生産性といった本源的な競争力を磨き続けることが、企業の持続的な成長の鍵となります。
4. コスト以外の付加価値の追求: 厳しい価格競争に巻き込まれないためにも、日本製品ならではの品質、信頼性、耐久性といった価値を、顧客に正しく伝え、評価される仕組みを強化する必要があります。また、生産プロセスにおける環境負荷の低減や、きめ細かなアフターサービスなども、重要な差別化要因となり得るでしょう。


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