米国の製造業雇用、8ヶ月連続で減少 ― 国内回帰(リショアリング)政策の現状と課題

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米国では政府主導で製造業の国内回帰(リショアリング)が推進されていますが、労働統計局の最新データでは、工場の雇用者数が過去1年で6万8000人減少し、直近では8ヶ月連続のマイナスとなりました。本稿では、この一見矛盾した状況の背景を分析し、日本の製造業が学ぶべき点を考察します。

米国の製造業における雇用の現状

米国の労働統計局(Bureau of Labor Statistics)が発表したデータによると、米国内の製造業における雇用者数は、この一年間で約6万8000人減少しました。特に注目すべきは、直近の統計において8ヶ月連続で前月比マイナスを記録している点です。これは、CHIPS法(半導体補助金)やインフレ抑制法(IRA)といった大規模な産業政策を通じて、国内への工場誘致やサプライチェーン再編を進める政府の方針とは、短期的な指標の上では逆行する動きに見えます。現場感覚としても、国内回帰への期待感と、実際の雇用統計との間に乖離が生じている状況と言えるでしょう。

雇用減少の背景にある複合的な要因

この雇用減少は、単一の理由で説明できるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられます。まず挙げられるのが、FRB(米連邦準備制度理事会)による急激な利上げの影響です。高金利は企業の借入コストを増加させるため、特に大規模な設備投資を必要とする製造業にとっては、新規投資や事業拡大への慎重姿勢につながります。工場の新設や増設プロジェクトの意思決定が遅れれば、当然ながら新規雇用も停滞します。

また、生産性向上のための自動化・省人化投資の加速も大きな要因です。米国でも労働者不足と人件費の高騰は深刻な課題であり、国内に回帰した工場が競争力を維持するためには、FA(ファクトリーオートメーション)やロボットの導入が不可欠となります。結果として、生産能力は向上しても、かつてのような労働集約的な形での雇用増には結びつきにくくなっているのです。これは、日本の製造現場が長年直面してきた課題とも共通します。

さらに、世界経済の不透明感や一部産業における需要の調整も無視できません。特にコロナ禍で急増した需要が一段落した分野などでは、生産調整に伴い、採用が手控えられている可能性も指摘されています。

リショアリング政策の評価と時間差

では、関税や補助金といったリショアリング政策は効果がないのでしょうか。結論を出すのは時期尚早と言えます。半導体工場のような大規模な投資案件は、計画発表から建設、そして本格稼働による雇用創出までには数年単位のタイムラグが存在します。現在進行中の多くのプロジェクトが本格的に稼働を始めれば、状況は変わる可能性があります。

重要なのは、「雇用者数」という単一の指標だけで政策の成否を判断することの危うさです。リショアリングの目的は、雇用の創出だけでなく、経済安全保障の観点からのサプライチェーン強靭化、そして先端技術の国内保持といった多面的な側面を持っています。投資額や国内生産額、技術開発力といった他の指標と合わせて、長期的な視点で評価していく必要があります。

日本の製造業への示唆

米国のこの動向は、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。

第一に、短期的な指標に惑わされない長期的な視点の重要性です。サプライチェーン再編や国内への設備投資は、息の長い取り組みです。目先の雇用統計や景況感だけで一喜一憂せず、自社の競争力強化という本質的な目的に沿って、腰を据えた戦略を実行することが求められます。

第二に、国内投資と生産性向上の両立が不可欠であるという点です。日本も人手不足は構造的な課題であり、国内に生産拠点を維持・拡大するためには、自動化やデジタル化による徹底した生産性向上が前提となります。目指すべきは、単純作業の担い手を増やすことではなく、高度なスキルを持つ技術者が付加価値の高い業務に集中できる環境を構築することです。

第三に、マクロ経済動向への感度を高める必要性です。米国の事例が示すように、金融政策(金利)の動向は、製造業の設備投資意欲に直接的な影響を与えます。日本でも金融政策の正常化が議論される中、金利動向や為替レートの変動を注視し、それらが自社の投資計画や財務に与える影響を常に分析しておくことが、経営の安定化につながります。

最後に、サプライチェーン強靭化とは、単に生産を国内に戻すことだけを意味するわけではありません。地政学リスクや災害など、あらゆる不確実性に備え、調達先の複線化や在庫の最適化、代替生産拠点の確保など、多角的な視点で自社の供給網を見直すことが本質です。今回の米国の状況は、政策と現場の間に横たわる複雑な実態を浮き彫りにしており、我々が自社の戦略を再点検する上での貴重なケーススタディと言えるでしょう。

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