一見、製造業とは無関係に思える映画製作の世界ですが、その現場には「プロダクション・マネジメント」という、私たちの「生産管理」に極めて近い役割が存在します。ハンガリーの映画に関する報道をきっかけに、映画製作におけるプロジェクト管理の手法と、それが日本の製造業にどのようなヒントを与えてくれるのかを考察します。
映画製作現場における「プロダクション・マネジメント」
先日、ハンガリーの学生が制作した映画が、世界的に権威のあるベルリン国際映画祭にノミネートされたという報道がありました。その記事の中で、製作スタッフの役割として「プロダクション・マネジメント」という言葉が使われていました。これは映画や映像制作の業界で使われる用語で、プロジェクト全体の予算、スケジュール、人員、機材などを管理し、作品という「製品」を定められた期間とコスト内で完成に導く、極めて重要な役割を指します。
具体的には、脚本という「設計図」をもとに、監督という「クリエイター」のビジョンを実現するため、撮影スケジュール(生産計画)を策定し、スタッフやキャスト(人員)、撮影機材やロケーション(設備・資材)を調達・手配し、予算(コスト)を管理します。まさに、製造業における生産管理業務そのものと言えるでしょう。
製造業の生産管理との共通点
映画製作のプロダクション・マネジメントと、我々製造業の生産管理には、多くの共通点を見出すことができます。最も重要なのは、QCD(品質・コスト・納期)を管理するという基本思想です。
- 品質(Quality): 監督や脚本家が意図する芸術的な品質を損なわないこと
- コスト(Cost): 決められた予算内で製作を完了させること
- 納期(Delivery): 映画祭の締め切りや劇場公開日という、厳格な納期を守ること
また、リソースの管理という点でも酷似しています。製造業の4M(Man, Machine, Material, Method)に当てはめてみると、監督・俳優・スタッフは「人」、カメラや照明機材は「設備」、ロケ地や小道具は「材料」、撮影計画は「方法」に相当します。さらに、天候による撮影延期や俳優の急な体調不良といった不確実性への対応は、製造現場における設備の突発故障や部材の納入遅延への対応と何ら変わりません。記事中に登場する「ラインプロデューサー」は、日々発生する現場の問題に対処し、計画を維持する役割であり、工場の製造課長や現場リーダーの仕事と重なります。
「創造性」と「効率性」の両立という課題
映画製作が製造業と大きく異なるのは、その成果物が工業製品ではなく、芸術的な側面を持つ「作品」である点です。プロダクション・マネージャーは、監督やクリエイターたちの創造性を最大限に引き出しながらも、一方で予算やスケジュールという現実的な制約をクリアしなければならないという、二律背反の課題に常に直面しています。
この「創造性と効率性の両立」は、今日の日本の製造業にとっても大きなテーマではないでしょうか。新しい技術やアイデアを盛り込んだ付加価値の高い製品(創造性)を、いかにして量産ラインで安定的に、かつ低コストで作り上げるか(効率性)。開発・設計部門と製造現場の間で、日々このような議論が交わされているはずです。プロダクション・マネージャーがクリエイターと製作陣の間に立つ調整役を担うように、製造現場の管理者にも、各部門の要求を深く理解し、現実的な最適解を導き出す高度な調整能力とコミュニケーション能力が求められていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
この異業種の事例から、私たちは以下の3つの重要な示唆を得ることができます。
1. 生産管理の原理・原則は普遍的である
QCDの最適化やリソース管理といった生産管理の基本は、どのような業種であっても変わりません。時に私たちは自社の常識に捉われがちですが、異業種のマネジメント手法に目を向けることで、自社のやり方を客観的に見つめ直し、改善のヒントを得るきっかけになります。
2. プロジェクトマネジメントの視点を取り入れる
映画製作は、まさに一つの「プロジェクト」です。多品種少量生産や一品一様の受注生産が増える現代の製造業において、従来のライン管理だけでなく、個別の製品や生産ロットを一つのプロジェクトとして捉え、管理する手法がますます重要になります。映画製作のように、開始から完了までを俯瞰するプロジェクトマネジメントの考え方は、大いに参考になるはずです。
3. 管理者に求められる「調整能力」の再認識
これからの工場長や現場リーダーには、単なる進捗管理者ではなく、開発・設計部門の「想い」と、製造現場の「現実」を繋ぐ、優れた調整役(ファシリテーター)としての役割が期待されます。異なる立場の人々の意見に耳を傾け、目標達成に向けて協調を引き出す能力は、企業の競争力を左右する重要なスキルとなるでしょう。


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