品質管理から工場長へ:部門横断の経験が育む、新時代の工場リーダーシップ

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世界的な食品メーカー、モンデリーズ・インターナショナル社の工場長のキャリアパスは、日本の製造業における人材育成のあり方を考える上で示唆に富んでいます。品質管理、継続的改善、そして生産と、多様な部門での経験が、いかにして複雑な工場運営を担うリーダーを育むのかを考察します。

はじめに:品質畑から工場長への道

大手食品メーカー、モンデリーズ・インターナショナルのスロバキア・ブラチスラバ工場で工場長を務めるアグニェシュカ・ロジツカ氏のキャリアは、多くの製造業関係者にとって興味深いものでしょう。彼女は品質スペシャリストとしてキャリアをスタートさせ、品質マネージャー、継続的改善(CI)マネージャー、生産部門長を経て、工場全体の運営を統括する現在の役職に就任しました。これは、特定の部門で専門性を高めていくキャリアパスが多い日本の製造業において、次世代のリーダー育成を考える上で一つのモデルケースとなり得ます。

キャリアの基盤となった品質管理と継続的改善(CI)

ロジツカ氏のキャリアの出発点が品質管理であったことは、特筆すべき点です。品質は製造業の根幹であり、その基準を深く理解していることは、後にどの部門を率いる上でも強固な基盤となります。日本の製造業においても「品質第一」は普遍的な価値観ですが、品質部門の経験者が工場全体のマネジメントを担うケースは、まだ多いとは言えないかもしれません。

さらに重要なのは、彼女が継続的改善(CI)マネージャーとして、同社独自の改善プログラム「IL6S(Integrated Lean Six Sigma)」の導入と推進に深く関わった経験です。IL6Sは、リーン生産方式とシックスシグマを統合した体系的な改善手法であり、この活動を通じて彼女は、特定の工程や部門だけでなく、工場全体のプロセスを俯瞰し、データに基づいて問題を解決する能力を養いました。これは、日本の現場で実践されるTPSやQC活動とも通じるものですが、より体系化されたフレームワークの中で、工場全体の最適化を主導した経験が、彼女の視野を大きく広げたと考えられます。

部門の壁を越える経験の価値

品質、継続的改善、生産という三つの異なる主要な機能を経験したことは、工場長としての彼女の最大の強みと言えるでしょう。製造現場では、しばしば生産部門の「効率・量」と、品質保証部門の「基準・正確さ」が対立構造になることがあります。また、改善活動が日常業務の負担と見なされることも少なくありません。

ロジツカ氏のように、これらの部門の論理や課題を実務として深く理解しているリーダーは、部門間のサイロ化を防ぎ、対立を乗り越える調整役を果たすことができます。各部門の目標を尊重しつつ、工場全体として「良いものを、効率よく、安全に作る」という共通の目的に向かって組織をまとめる上で、部門横断的な経験は極めて有効に機能します。

これからのリーダーに求められる視点

彼女のインタビューからは、チームのエンゲージメントや多様性を重視するリーダーシップ像も浮かび上がります。複雑化・高度化する現代の工場運営においては、トップダウンの指示命令だけでは限界があります。従業員一人ひとりの主体性を引き出し、多様な視点を意思決定に活かすことで、組織全体の対応力や問題解決能力は向上します。品質や改善活動の経験は、現場の従業員との対話を促し、彼らの知見を吸い上げてプロセスに反映させるという、ボトムアップのアプローチを実践する上でも役立っているはずです。

日本の製造業への示唆

この事例から、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。以下に要点を整理します。

1. 次世代リーダーの計画的な育成:
将来の工場長や経営幹部候補に対して、意図的に部門を横断するキャリアパスを設計することが重要です。特に、生産、品質、保全、そして継続的改善といった基幹となる機能を複数経験させることで、全体最適の視点を持つリーダーを育成できます。

2. 品質管理部門の新たな役割:
品質管理・品質保証部門を、単なる検査や監査の部署としてだけでなく、全社的なプロセス改善を主導し、将来の経営人材を育成する戦略的な部門として位置づける視点も有効でしょう。品質の視点は、あらゆる業務の基本となるからです。

3. 体系的な改善手法の活用:
TPSやTQC活動といった優れた伝統を持つ日本の製造業ですが、IL6Sのようなグローバルで標準化された改善フレームワークを導入・活用することも、部門横断的な共通言語を育み、論理的な問題解決能力を高める上で有益と考えられます。

4. 経験の多様性が組織を強くする:
一つの道を究める「専門家」の育成と並行して、複数の専門性を繋ぎ合わせることができる「ジェネラリスト」の育成にも注力することが、変化の激しい時代において組織の柔軟性と競争力を高める鍵となります。

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