米国の新興EVメーカー、リヴィアン社が、開発・生産の現場でアディティブ・マニュファクチャリング(AM、3Dプリンティング)技術をいかに戦略的に活用しているか、その具体的な取り組みが明らかになりました。本稿では、同社の事例をもとに、自動車産業におけるAM活用の現在地と今後の可能性について考察します。
はじめに:試作ツールから製造技術へ
これまでアディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、主に開発段階における試作品(プロトタイプ)の製作に用いられてきました。しかし技術の進化に伴い、その役割は大きく変化しつつあります。生産ラインで使われる治具や工具の製作、さらには最終製品に使用される部品の少量生産など、その活用範囲は製造工程全体へと広がっています。特に、開発スピードが競争力を左右する自動車業界において、AMは不可欠な技術となりつつあります。
リヴィアン社の開発現場に見るAM活用
新興EVメーカーであるリヴィアン社のエンジニアリングセンターでは、AM技術が開発プロセスの中核に据えられています。特筆すべきは、設計エンジニアが自身のデスクからすぐアクセスできる場所に、複数台の3Dプリンタが設置されている点です。これにより、エンジニアは設計アイデアを数時間から数日で物理的な部品として手に取り、検証することができます。従来の金型を用いた工法では数週間から数ヶ月を要したこのサイクルが劇的に短縮されることで、設計の改善(イテレーション)が高速化され、開発全体のリードタイム短縮と品質向上に直結しています。
生産性向上に貢献する「SAF技術」
リヴィアン社の現場で導入されているのは、Stratasys社の「H350」という3Dプリンタです。このプリンタは、SAF(Selective Absorption Fusion)と呼ばれる比較的新しい技術を採用しています。これは粉末床溶融結合法(PBF)の一種で、敷き詰められた樹脂粉末の層に対し、赤外線を吸収する液体(フュージングエージェント)を選択的に塗布し、赤外線ランプで加熱・溶融させて造形する方式です。この方式は、熱管理の効率が良く、造形エリア全体を均一に加熱できるため、反りなどの変形が少なく、一貫した品質の部品を高い生産性で製造できるという特徴があります。日本の製造現場で求められる、安定した品質と生産量を両立させる上で、注目すべき技術と言えるでしょう。
治具・工具から最終部品への展開
リヴィアン社では、開発試作はもちろんのこと、生産ラインで用いられる治具や組付け補助具の製作にもAMを積極的に活用しています。現場の作業者が求める形状や機能を即座に反映した治具を内製することで、ラインの立ち上げ迅速化や、継続的な生産性改善に繋げています。日本の多くの工場でも治具の内製化は進んでいますが、リヴィアン社のように開発部門と一体となってスピーディに取り組む体制は、競争力を高める上で非常に重要です。将来的には、こうした技術を用いて、補給部品やカスタマイズ部品といった、少量生産の最終製品用パーツを直接製造することも視野に入れていると考えられます。これは、金型費用の課題を解決し、サプライチェーンを簡素化する可能性を秘めています。
日本の製造業への示唆
今回のリヴィアン社の事例は、日本の製造業、特に自動車関連産業に従事する我々にとって、多くの実務的な示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 開発リードタイム短縮の実現:
AM技術を設計開発部門の日常的なツールとして組み込むことで、検証サイクルを高速化できます。これは、単なる設備導入に留まらず、設計者が自由に使える環境と文化を醸成することが重要であることを示唆しています。
2. 製造現場の柔軟性とカイゼン加速:
治具や工具の内製化は、コスト削減だけでなく、現場の要求に迅速に応えることで生産ラインの柔軟性を高め、日々のカイゼン活動を加速させます。SAF技術のような生産性の高いAM技術は、この取り組みをさらに後押しするでしょう。
3. サプライチェーンの強靭化:
補給部品や少量部品をオンデマンドで生産する体制は、金型保管コストの削減や、昨今頻発するサプライチェーン寸断リスクへの有効な対策となり得ます。自社の製品ポートフォリオの中で、AMによる内製化が有効な部品は何かを検討する価値は大きいでしょう。
4. 技術選定の重要性:
AM技術は多様化しており、それぞれに得意・不得意があります。リヴィアン社がSAF技術を選定したように、自社の目的(試作か、治具か、最終部品か)や、求める品質、コスト、生産量に応じて、最適な技術を見極める専門的な視点が不可欠です。
AM技術を単なる試作ツールとしてではなく、設計から生産に至るバリューチェーン全体を革新する戦略的技術として捉え直すことが、今後の競争力を維持・向上させる上で重要な鍵となりそうです。


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