なぜ今、製造業の競争力にとって「エネルギー」が重要性を増しているのか

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製造業における立地選定やサプライチェーンの重要性は論を俟ちません。しかし近年、エネルギーコストの高騰、供給の不安定化、そして脱炭素への社会的要請を背景に、「エネルギー」そのものが企業の競争力や事業継続を左右する戦略的要素として、その重要性を急速に増しています。

はじめに:見過ごされがちなエネルギーという経営課題

これまで製造業の事業展開において、立地、輸送、物流といった要素は、経済合理性を構成する物理的な基盤として最重要視されてきました。しかし、いかに優れた立地条件やサプライチェーンを構築したとしても、現代の製造業は「エネルギー」という、より根源的な課題に直面しています。エネルギーはもはや単なるコストの一部ではなく、企業の競争優位性、ひいては事業の存続そのものを左右する戦略的な経営課題へと変貌しつつあるのです。

変動するエネルギーコストと収益性への影響

多くの製造業にとって、エネルギーコストは製造原価における大きな割合を占めます。特に、近年の世界情勢の不安定化や為替の変動は、電気料金や燃料価格の高騰に直結し、多くの企業の収益を圧迫しています。従来の省エネ活動によるコスト削減努力だけでは、この大きな変動を吸収しきれないケースも少なくありません。エネルギー調達の最適化、価格変動リスクをヘッジする方策、あるいはより抜本的なエネルギー転換など、コスト管理の観点からも能動的なエネルギー戦略が求められています。

事業継続計画(BCP)の要としてのエネルギー安定供給

生産ラインの自動化や精密加工技術が進展した現代の工場において、電力の安定供給は事業継続の生命線です。たとえ短時間の停電であっても、生産ラインの停止、仕掛品の廃棄、設備の再立ち上げにかかる時間とコストは甚大な損害につながりかねません。また、電圧の瞬時低下や周波数の乱れといった電力品質の低下が、精密な制御を要する機器の誤作動や故障を引き起こすリスクも増大しています。自然災害の激甚化などを背景に、エネルギー供給網の脆弱性は無視できないリスクとなっており、自家発電設備の導入やエネルギー貯蔵システムの活用など、BCPの観点からエネルギーのレジリエンス(強靭性)を高める取り組みが不可欠です。

脱炭素化とサステナビリティ:新たな取引条件へ

かつて環境対応は企業の社会的責任(CSR)活動の一環と捉えられがちでした。しかし今日では、気候変動対策は事業戦略そのものと不可分になっています。特にグローバルに展開する大手企業を中心に、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成が目標とされ、取引先であるサプライヤーに対しても再生可能エネルギーの利用を求める動きが加速しています。これは、自社工場で使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えなければ、将来的に取引を失うリスクがあることを意味します。太陽光発電のPPA(電力販売契約)モデルの活用など、クリーンなエネルギーへの転換は、環境負荷の低減だけでなく、顧客や投資家からの評価を高め、事業機会を確保するための必須条件となりつつあります。

技術革新が要求する電力の「量」と「質」

スマートファクトリー化を目指し、IoT、AI、ロボティクスといった先進技術の導入を進める工場は少なくありません。これらのデジタル技術や自動化設備は、生産性を飛躍的に向上させる一方で、総じてより多くの電力を消費します。また、半導体を用いる精密機器は、前述の通り電力品質の変動に極めて敏感です。今後のさらなる工場の電化(例えば、化石燃料を使用していた加熱プロセスを電気炉に転換するなど)も視野に入れると、工場の電力インフラは、将来の需要増に対応できる十分なキャパシティと、高度な設備を安定稼働させるための高い品質の両方が求められることになります。

日本の製造業への示唆

本稿で見てきたように、エネルギーは現代の製造業にとって多面的な重要性を持っています。これを踏まえ、日本の製造業関係者は以下の点を認識し、具体的な行動に移すことが肝要です。

1. エネルギーを「戦略資源」として再定義する:
エネルギーを単なる変動費として管理するのではなく、事業の競争力と持続可能性を支える重要な経営資源と位置づけ、全社的な戦略を策定する必要があります。経営層が主導し、調達、生産、設備、財務といった各部門が連携して取り組むべき課題です。

2. 多角的な視点でのエネルギー戦略の推進:
従来の「省エネ」によるコスト削減に加え、「安定調達(BCP・レジリエンス)」と「脱炭素(サステナビリティ)」という、少なくとも3つの軸で戦略を評価し、実行することが求められます。これらはトレードオフの関係にある場合もありますが、中長期的には企業価値を高める投資と捉えるべきでしょう。

3. 将来を見据えた設備・インフラ投資の計画:
工場のスマート化や電化の進展は、将来的な電力需要を確実に増加させます。目先の設備更新だけでなく、10年、20年先を見据えた事業計画と連携し、工場の受電設備やエネルギーマネジメントシステムの増強・更新を計画的に進める視点が不可欠です。

エネルギーを巡る事業環境の変化は、すべての製造業にとって避けては通れない潮流です。この変化をリスクとしてだけでなく、新たな競争優位を築く機会と捉え、戦略的に対応していくことが、これからの日本の製造業には求められています。

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