WHOの最新動向に学ぶ、医薬品製造におけるコンプライアンスと継続的改善の本質

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世界保健機関(WHO)は、ワクチン製造能力強化を目的としたcGMP(current Good Manufacturing Practice)に関する国際的なトレーニングの成果を報告しました。この取り組みは、高度な品質管理が求められる医薬品分野に留まらず、日本の製造業全体にとって品質保証体制のあり方を再考する上で重要な示唆を与えています。

WHOが主導するグローバルな品質基準の浸透

世界保健機関(WHO)は、特に低・中所得国(LMICs)におけるワクチン製造能力の向上を目指し、cGMP(current Good Manufacturing Practice)に関する大規模なバーチャルトレーニングを実施しました。この取り組みの背景には、パンデミック等の健康危機に対応するため、世界各地で高品質な医薬品を安定的に製造できる体制を構築するという大きな目的があります。これは、特定の国や地域の問題ではなく、グローバルなサプライチェーンに関わる全ての製造業者にとって無関係な話ではありません。

cGMPとは何か – 「c」が意味する動的な品質保証

日本の製造現場では、医薬品医療機器等法に基づくGMP(Good Manufacturing Practice)が馴染み深いですが、国際的には「c」が付いたcGMPが標準となりつつあります。この「c」は「current(最新の)」を意味し、単に定められた基準を満たすだけでなく、常に最新の科学技術的知見に基づき、製造工程や品質管理システムを継続的に改善し続けることを要求するものです。つまり、GMPは静的な「遵守」の側面が強いのに対し、cGMPは動的な「改善」の思想を内包していると言えます。これは、一度作った標準を維持するだけでなく、より良い方法を常に模索し続ける、日本の「カイゼン」の精神とも通じるものがありますが、cGMPではそのプロセスがより科学的根拠とデータに基づいて体系的に管理されることが求められます。

「制度的コンプライアンス」という考え方

今回のWHOの報告で注目すべきは、「institutional compliance(制度的コンプライアンス)」という言葉です。これは、単に規制当局の査察をクリアするための表面的なルール遵守を意味するものではありません。品質方針が組織の隅々まで浸透し、文書管理システムが適切に機能し、従業員への教育・訓練が継続的に行われ、逸脱や変更が生じた際に適切なプロセスで管理されるといった、品質を保証するための「仕組み」そのものが組織文化として定着している状態を指します。日本の工場においても、手順書や記録類は整備されていても、その目的や背景が現場の作業者にまで十分に理解されず、形骸化してしまうケースが見受けられます。真のコンプライアンスとは、ルールを守ること自体が目的化するのではなく、品質を保証するという共通の目的のために、組織全体が自律的に機能する仕組みを構築・維持することに他なりません。

継続的改善を支える品質文化の醸成

cGMPが求める継続的改善は、場当たり的な改善活動とは一線を画します。製造工程で発生した逸脱や市場からの苦情に対し、CAPA(Corrective Action and Preventive Action:是正措置・予防措置)の考え方に基づき、根本原因を徹底的に追究し、再発防止策を講じ、その有効性を検証するという一連のサイクルを回すことが不可欠です。こうした活動を支えるのが、問題を隠さず、積極的に報告し、組織全体で解決にあたる「品質文化」です。経営層から現場のリーダー、そして一人ひとりの技術者や作業者が、品質に対する高い意識を共有し、日々の業務の中で改善の種を見つけ出し、育てていく。WHOが人材育成としてのトレーニングを重視しているのも、こうした品質文化の担い手は「人」に他ならないという認識の表れでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のWHOの報告から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。

1. グローバル基準への対応力強化:
医薬品や医療機器はもちろん、食品、化粧品、精密電子部品など、人の安全や製品の信頼性に直結する分野では、cGMPに代表される国際的な品質保証の考え方を理解し、自社のシステムに取り入れていくことが、グローバル市場での競争力を維持・向上させる上で不可欠です。

2. 「守る」から「改善し続ける」品質保証へ:
既存の品質マネジメントシステム(QMS)が形骸化していないか、定期的に見直す必要があります。「ルールだから守る」という意識から一歩進み、「なぜこのルールが必要か」「もっと良くする方法はないか」を組織全体で問い続け、科学的データに基づいてシステムを更新し続ける動的な体制が求められます。

3. 品質文化の再構築:
品質は品質保証部門だけのものではありません。製造、開発、購買、経営といった全部門が関わる組織横断的な活動です。問題を個人の責任に帰するのではなく、システムの問題として捉え、オープンに議論し、解決策を導き出す文化を醸成することが、真の継続的改善につながります。

4. 人材育成への継続的投資:
高度化・複雑化する製造プロセスと品質要求に応えるためには、専門知識を持った人材の育成が急務です。WHOがトレーニングを重視するように、社内外の教育機会を積極的に活用し、従業員のスキルと品質意識を高めることが、企業の持続的な成長の基盤となります。

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