一見、製造業とは直接関係のないAV(オーディオビジュアル)技術に関するイベント情報の中に、現代の工場運営や企業経営に通じる重要な視点を見出すことができます。それは、複雑化する課題解決には、専門分野を超えた「部門横断」のアプローチが不可欠であるという点です。
異分野のイベントが示す、組織運営の共通課題
AVIXA(Audiovisual and Integrated Experience Association)が主催する、高等教育機関向けのあるイベント情報に興味深い記述がありました。そのイベントが対象とする参加者の職務領域として、「生産管理」をはじめ、「施設・資産管理」「財務・会計」「人事」「IT管理」「経営層」といった、極めて多岐にわたる部門が列挙されていたのです。
これは、特定の技術やソリューションを導入・活用する際、もはや単一の専門部署だけで完結することはなく、組織内の様々な機能が連携する必要があるという現代的な課題認識の表れと言えるでしょう。例えば、教育機関に高度なAVシステムを導入する場合でも、技術的な側面(IT部門)、施設の物理的な制約(施設管理部門)、予算(財務部門)、そしてそれを使う人材(人事・教職員)といった、多様な視点からの検討が不可欠です。この構造は、そのまま製造業の現場にも当てはめることができます。
製造現場に潜む「部門の壁」という名の課題
日本の製造業の現場に目を向けると、多くの企業で「部門のサイロ化」が課題として認識されています。生産技術、製造、品質保証、設備保全、IT、経理、人事など、各部門が高い専門性を持つ一方で、その専門性がかえって部門間の壁となり、全体最適の妨げとなっているケースは少なくありません。
例えば、生産性向上のために新しい設備を導入する場面を考えてみましょう。生産技術部門が主導で選定した設備が、現場作業者にとっては使いにくかったり、保全部門がメンテナンスしにくい構造であったり、あるいはIT部門が求めるデータ連携の仕様を満たしていなかったり、といった問題が発生することがあります。これらは、初期段階から関係部署を巻き込んだ検討が行われていれば、防げた可能性のある問題です。
部門横断で実現する、より高い次元での価値創出
前述のイベントが示唆するように、一つの大きな目的、例えば「スマートファクトリーの実現」といったテーマに対して、関係する全部門がそれぞれの専門性を持ち寄ることが、成功の鍵となります。製造部門は現場の知見を、保全部門は予知保全の視点を、品質保証部門はトレーサビリティの要件を、そしてIT部門はデータ活用の基盤を提供する、といった具合です。
さらに、人事部門は新たなスキルセットを持つ人材の育成計画を、財務部門は投資対効果を長期的な視点で評価する仕組みを構築する必要があります。そして何より、経営層が全社的なビジョンを明確に示し、部門間の連携を強力に後押しするリーダーシップを発揮することが不可欠です。こうした連携を通じて初めて、単なる設備の更新やシステムの導入に留まらない、企業全体の競争力強化に繋がる本質的な変革が実現できるのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回の情報から、日本の製造業が実務に活かすべき示唆を以下に整理します。
1. 課題解決における「部門横断」プロセスの定着
新しい技術の導入や生産改善プロジェクトを計画する際は、企画の初期段階から関係部署を明確にし、当事者として参画を求めるプロセスを定着させることが重要です。異なる視点からの意見は、潜在的なリスクの低減と、より実効性の高い計画策定に繋がります。
2. 全社共通の目標とデータ基盤の構築
部門間の壁を越えるためには、それぞれのKPIだけでなく、工場全体、ひいては事業全体の利益といった共通の目標を共有することが不可欠です。その上で、部門を横断してデータを共有・活用できる基盤を整備し、「データに基づいた対話」を促すことが、客観的で建設的な協力関係を築く上で効果的です。
3. 経営層による積極的な関与と支援
部門横断の取り組みは、各部門の利害が衝突することもあり、現場の努力だけでは限界があります。経営層や工場長が、部門間の調整役を担い、サイロ化を打破するという明確な意志を示すことが求められます。全社的な視点からのリーダーシップこそが、組織全体の力を引き出す原動力となります。


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