スウェーデンの国際環境NGOであるChemSecが、世界の主要化学メーカー50社を対象とした有害化学物質管理に関する評価「ChemScore」の最新版を公表しました。特にPFAS(有機フッ素化合物)への対応が焦点となり、米国の大手企業が軒並み低い評価を受ける一方、欧州企業が先行する結果は、日本の製造業にとっても示唆に富むものです。
ChemSecによる化学メーカー評価の概要
ChemSecは、より安全な化学物質への移行を促進することを目的に活動する、国際的な影響力を持つ非営利団体です。同団体が公表する「ChemScore」は、投資家やサプライチェーン川下の企業に対し、化学メーカー各社の有害化学物質に対する管理体制や将来的なリスクに関する透明性の高い情報を提供することを目的としています。評価は、①有害化学物質のポートフォリオ、②代替物質・技術開発への取り組み、③情報開示や管理方針の透明性、といった複数の観点から行われます。
米国企業への厳しい評価と背景
今回の評価では、3M、ダウ、デュポン、エクソンモービルといった米国の世界的な化学メーカーが、50社中低いランクに位置付けられました。これらの企業は、依然として人の健康や環境への懸念が高い化学物質を製造していることや、より安全な代替物質への移行に向けた戦略が不十分であると判断されたものと考えられます。一方で、同じ米国企業でもエコラブ社は、2025年末までにPFASの使用を段階的に廃止する計画を明確にしたことで、比較的高い評価を得ました。このことは、企業姿勢や戦略の明確化が、外部からの評価を大きく左右することを示しています。
日本の製造現場においても、これらの米国大手企業から材料を調達しているケースは少なくないでしょう。サプライヤーの化学物質管理に対する姿勢が、自社製品の将来的な規制対応リスクに直結する可能性を、改めて認識する必要があります。
先行する欧州企業と規制動向
対照的に、アクゾノーベル社(オランダ)やソルベイ社(ベルギー)といった欧州の化学メーカーは、比較的高い評価を獲得しました。この背景には、欧州で先行して導入されている厳しい化学物質規制「REACH規則」への長年にわたる対応経験が挙げられます。規制の厳しい市場で事業を行うことが、結果として企業の化学物質管理能力やリスク対応力を高め、外部評価にも繋がっていると言えるでしょう。
世界的にPFASをはじめとする化学物質への規制は強化される潮流にあります。特に欧州の動向は、数年後の世界標準や日本の法規制に影響を与えることが多く、他人事ではありません。自社の製品が輸出されるか否かにかかわらず、グローバルなサプライチェーンの一部である以上、これらの動向を注視し、先を見越した対応を検討することが不可欠です。
ESG投資とサプライヤー管理の重要性
ChemSecのような外部機関による評価は、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家の判断材料として、その重要性を増しています。化学物質に起因する環境汚染や健康被害は、将来的な訴訟リスクやブランド価値の毀損に繋がりかねず、投資家はこうした「見えない負債」を厳しく評価します。つまり、化学物質管理への取り組みは、もはや単なるコンプライアンス対応ではなく、企業価値そのものを左右する経営課題となっています。
また、自動車や電機、消費財といった最終製品メーカーは、自社製品の安全性と法規制遵守を担保するため、サプライヤーに対してより厳格な化学物質管理を求めるようになっています。部品や素材を供給するメーカーは、顧客からの要求に応えるため、自社製品に含まれる化学物質の情報を正確に把握し、伝達する体制を構築することが急務と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のChemSecによる評価結果は、日本の製造業に携わる我々にとっても、以下の重要な示唆を与えてくれます。
1. 化学物質管理は経営マターであることの再認識
環境・安全部門だけの問題ではなく、事業継続や企業価値に直結する経営課題として捉える必要があります。経営層が主導し、全社的な戦略として取り組むことが求められます。
2. サプライチェーン全体の透明性確保
自社の管理体制だけでなく、上流のサプライヤーから提供される原材料や部品に含まれる化学物質情報を正確に把握することが不可欠です。chemSHERPAのような情報伝達スキームの活用を含め、サプライヤーとの連携を一層強化する必要があります。
3. 規制動向の先読みと代替技術への備え
国内外の規制強化の動きを常に監視し、「規制されたから対応する」という後追いの姿勢ではなく、将来のリスクを見越して代替材料や代替技術の検討・評価を進めておくことが、事業の安定性と競争力に繋がります。
4. ステークホルダーへの情報開示
投資家や顧客、そして社会に対し、自社の化学物質管理方針や取り組みの進捗を、透明性をもって積極的に開示していくことが、企業の信頼性を高める上で今後ますます重要になるでしょう。


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