先日、海外の大学における生産管理分野の教員募集要項が公開されました。そこでは学術的な知見に加え、製造現場での実務経験や生産管理ソフトウェアの知識が明確に求められており、この傾向は日本の製造業における人材育成の方向性にも重要な示唆を与えています。
アカデミアで求められる「現場の知見」
英国の高等教育機関で公開された「生産・オペレーションズマネジメント」分野の教員募集要項において、応募条件の一つとして「生産関連のソフトウェアやシステムの使用経験」や「製造、生産管理、品質保証における実務経験」が望ましい、と明記されていました。これは、大学という学術研究・教育の場においても、机上の空論ではない、現場に根差した実践的な知識がいかに重要視されているかを示す好例と言えるでしょう。
かつて、大学で教えられる生産管理は、MRP(資材所要量計画)の理論やトヨタ生産方式の概念といった、体系的・理論的な側面が中心でした。しかし、現代の工場運営は、ERPやMES(製造実行システム)といったITシステムと不可分な関係にあります。データをいかに収集・分析し、迅速な意思決定に繋げるかが競争力の源泉となる中で、教育の現場でも、こうした実務的なシステムへの理解が不可欠であると認識され始めているのです。
理論と実践を繋ぐ人材の価値
この動きは、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。多くの企業では、現場のリーダーや管理職の育成において、長年の経験から得られる暗黙知やOJTが中心となってきました。それは日本のものづくりの強みである一方、体系的な知識やデジタルツールを使いこなす能力の育成が課題となる側面もありました。
例えば、生産計画を立案する際、担当者は自社の生産管理システムの特性を熟知している必要がありますが、同時にMRPやスケジューリングの理論的背景を理解していれば、より精度の高い、あるいはイレギュラーな事態にも強い計画を立てることが可能になります。品質管理においても、QC七つ道具といった手法の知識と、統計解析ソフトウェアを使いこなして膨大な生産データから不良の真因を探るスキルは、もはや両輪と言えるでしょう。
海外の大学が、学術的な探求能力に加え、こうした実務能力を持つ人材を教員として迎え入れようとしている事実は、これからの製造業を担う人材には「理論」と「実践(特にデジタルツールを活用した)」の両方のスキルが標準装備として求められる時代になったことを示唆しています。
日本の製造業への示唆
今回の情報から、日本の製造業が人材育成や組織運営において考慮すべき点を以下に整理します。
1. 経験知と体系的知識の融合
現場でのOJTに加え、管理者や技術者が生産管理や品質管理の理論を体系的に学ぶ機会を設けることが重要です。これにより、個々の経験が普遍的な知識として整理され、より高度な問題解決能力の育成に繋がります。
2. デジタルリテラシーの標準スキル化
生産管理システムや各種ソフトウェアの操作は、もはや一部の専門家のスキルではありません。工場長や現場リーダーこそが、自社のシステムからどのようなデータが得られ、それをどう意思決定に活かすべきかを理解している必要があります。こうしたデジタルリテラシーを、階層別教育などの体系に組み込むことが求められます。
3. 「教える側」のスキルセット見直し
社内で技能伝承や教育を担う人材にも、旧来のやり方を教えるだけでなく、なぜそうなるのかという理論的背景や、関連するITツールの活用法を合わせて指導できる能力が今後ますます重要になります。実務経験豊富なベテラン社員に、改めて体系的な知識やデジタルスキルを学ぶ機会を提供することも有効な一手でしょう。


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