最新の市場予測によると、世界の半導体製造装置市場は、AIと高性能コンピューティング(HPC)分野の活況を受け、2033年までに2244.4億ドルを超える規模に達する見込みです。この潮流は、日本の関連産業にとって大きな事業機会であると同時に、技術開発とサプライチェーン戦略の再考を促すものと言えるでしょう。
記録的な設備投資が予測される市場背景
各種調査レポートによると、世界の半導体製造装置市場は今後約10年間で大きな成長を遂げると予測されています。その最大の牽引役となっているのが、生成AIの急速な普及やデータセンターの高性能化に伴う、先端半導体への旺盛な需要です。これに対応するため、世界中の半導体メーカーが大規模な設備投資計画を打ち出しており、製造装置への需要が記録的な水準で推移することが見込まれています。
AI・HPCがもたらす技術的な要求
AIやHPCに用いられる半導体は、膨大なデータを高速で処理するため、回路線幅の微細化や3D積層といった最先端の技術が不可欠です。これにより、EUV(極端紫外線)露光装置のような高額な前工程装置はもちろん、原子層堆積(ALD)やドライエッチング装置など、より精密な加工を実現する装置の需要が高まっています。日本の製造業は、これらの高度な装置に組み込まれる精密部品や特殊な素材、あるいは計測・検査装置といった分野で世界的に高い競争力を持っており、市場の拡大は追い風になると考えられます。
「後工程」の重要性と日本の強み
微細化の物理的な限界が近づく中で、近年は複数のチップを組み合わせる「チップレット」技術など、後工程(パッケージング)における技術革新の重要性が増しています。半導体の性能を最終的に決定づけるこの領域では、ダイシングやボンディング、封止、そして最終検査といった各工程で高い精度が求められます。この後工程分野は、もともと日本の装置メーカーや材料メーカーが強みを発揮してきた領域です。最先端ロジック半導体のサプライチェーンにおいて、日本の存在感は今後さらに高まる可能性があります。
サプライチェーン全体での対応が課題
市場の急拡大は、製造装置メーカーだけでなく、そのサプライチェーンを構成する部品メーカー、素材メーカー、加工事業者にとっても大きな影響を及ぼします。需要の急増は、特定の部品や素材の供給不足、リードタイムの長期化といったリスクもはらんでいます。また、半導体が国家の安全保障に直結する戦略物資と見なされるようになった現在、地政学的なリスクを考慮したサプライチェーンの強靭化は、経営における最重要課題の一つです。国内生産体制の強化や、供給元の複線化といった取り組みが、これまで以上に重要になるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の市場予測は、日本の製造業にとって重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. 事業機会の明確化: AI・HPCという明確な成長分野をターゲットに、自社の技術や製品がどの工程(前工程、後工程、検査、材料など)で貢献できるかを再評価し、研究開発や設備投資の優先順位を見直すことが求められます。
2. 技術開発の方向性: 微細化の追求に加え、3D積層やチップレットといった新しい技術潮流に対応する開発を加速させる必要があります。特に、日本の強みが活きる後工程関連の要素技術や、それに伴う検査・計測技術の高度化は重要なテーマです。
3. サプライチェーンの再構築: 特定の顧客や地域への依存度を見直し、リスク分散を図ることが不可欠です。顧客である半導体メーカーの国内外における新工場建設計画などを注視し、機動的に対応できる供給体制を構築しておく必要があります。
4. 人材育成の強化: より高度で複雑化する製造装置を開発・製造・維持管理するためには、専門知識を持つ技術者の育成が急務です。社内教育の充実や、外部機関との連携による人材確保が、中長期的な競争力を左右するでしょう。


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