私たちは日常業務の中で「品質」という言葉を頻繁に使いますが、その定義は立場や部門によって微妙に異なることがあります。本記事では、生産管理の基本的な観点から「品質」の定義を整理し、日本の製造業におけるその意味合いと実践的な示唆を考察します。
はじめに:「品質」という言葉の多義性
製造現場における「品質」とは、何を指すのでしょうか。ある技術者は「図面通りの寸法精度」を思い浮かべるかもしれませんし、検査担当者は「外観の美しさやキズの有無」を、経営者は「顧客満足度やブランドイメージ」を想起するかもしれません。このように、「品質」という一つの言葉が持つ意味は多岐にわたります。この認識のズレが、時に部門間の連携不足や、顧客要求との乖離を生む一因となることも少なくありません。今一度、その基本的な定義に立ち返ることは、組織全体のベクトルを合わせる上で非常に有益です。
生産管理における基本的な品質の定義
生産管理の教科書を開くと、品質は大きく二つの側面に分けて説明されることが一般的です。それは「設計品質」と「製造品質」です。
1. 設計品質(Quality of Design)
「狙いの品質」とも呼ばれ、製品がどのような機能、性能、信頼性を持つべきかを定めた仕様そのものを指します。これは、市場のニーズや顧客の要求を分析し、それを具体的な製品仕様として落とし込む設計開発部門の役割が中心となります。どれだけ優れた製造能力があっても、この設計品質が顧客の期待とずれていては、市場で受け入れられることはありません。
2. 製造品質(Quality of Conformance)
「適合品質」とも呼ばれ、実際に製造された製品が、定められた設計品質(図面や仕様書)にどれだけ忠実に適合しているか、その度合いを指します。日本の製造現場で「品質管理」と言えば、多くの場合この製造品質の向上を指すことが多いでしょう。工程能力指数(Cpk)の改善や不良率の低減といった活動は、まさにこの製造品質を高めるための取り組みです。現場の5Sやなぜなぜ分析、QCサークル活動などは、この品質を安定的に維持・向上させるための強力な手法と言えます。
顧客視点からの品質:「使用への適合性」
設計品質と製造品質は、いわば作り手側からの視点です。しかし、最終的に製品の価値を判断するのは顧客です。品質管理の大家であるジョセフ・M・ジュラン博士は、品質を「使用への適合性(Fitness for use)」と定義しました。これは、顧客がその製品を使用する状況において、その目的をどれだけ満たせるか、という視点です。
例えば、ある部品の寸法が仕様のど真ん中で作られていたとしても(製造品質が高い)、その部品を組み込んだ最終製品が顧客にとって使いにくければ、「品質が高い」とは言えません。逆に、仕様の範囲内ギリギリであっても、顧客が求める機能や使い心地を実現できているならば、それは「使用への適合性」が高いと評価されます。この視点は、単なる仕様遵守を超えて、顧客の潜在的なニーズや実際の使用環境まで踏み込んで品質を考えることの重要性を示唆しています。
全社で取り組む品質経営へ
今日の製造業において、品質は製造部門だけの課題ではありません。設計段階での品質の作り込み(源流管理)、サプライヤーから購入する部品の品質、営業部門が顧客からヒアリングする要求品質、そして納品後のアフターサービスに至るまで、事業活動のあらゆるプロセスが最終的な製品品質に影響を与えます。
こうした考え方は、TQM(Total Quality Management:総合的品質経営)として体系化されています。経営層が明確な品質方針を掲げ、工場長や管理者がそれを具体的な目標に落とし込み、現場の技術者や作業者が日々の改善活動を通じて品質を作り込む。このように、組織の全員がそれぞれの立場で品質向上に参加する文化を醸成することが、持続的な競争力の源泉となります。
日本の製造業への示唆
1. 「品質」の共通言語化を進める
自社や自部門にとっての「品質」とは何かを改めて定義し、組織内で共通認識を持つことが重要です。顧客が求める価値は何かを起点に、それを設計品質にどう落とし込み、製造品質としてどう保証していくのか。この一連の流れを関係者全員が理解することで、活動のブレが少なくなります。
2. 顧客価値への回帰とコストバランス
日本の製造業は、高い製造品質を追求することに長けています。しかし、その追求が時として過剰品質(オーバースペック)となり、不必要なコスト増を招いていないか、常に問い直す視点も必要です。「使用への適合性」という観点から、本当に顧客が価値を感じるポイントに資源を集中させることが、収益性を伴った品質経営につながります。
3. サプライチェーン全体での品質構築
製品の複雑化が進む中、品質は自社工場内だけで完結するものではなくなりました。優れた設計品質を実現するためには、早い段階からサプライヤーと協力し、部品レベルでの品質を作り込むことが不可欠です。また、販売後の市場からのフィードバックを迅速に設計や製造に反映させる仕組みも、顧客にとっての「品質」を継続的に高めていく上で極めて重要と言えるでしょう。


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