米ニューメキシコ州、台湾企業の工場誘致に成功 ― 北米サプライチェーン再編の現場から

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米ニューメキシコ州の国境都市サンタテレサに、台湾のケーブルメーカーが新工場を建設することが明らかになりました。本件は、パンデミック以降に加速するサプライチェーンの「ニアショアリング(近隣国への生産移管)」の具体的な動きとして、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。

台湾ケーブルメーカーが米国に新工場を設立

米国のマーティン・ハインリック上院議員(ニューメキシコ州選出)の発表によると、台湾のケーブル・ワイヤーハーネスメーカーであるAdmiral Cable社が、同州サンタテレサに新たな製造施設を建設します。この投資により、340名規模の恒久的な雇用が創出される見込みです。同社は家電製品、電気自動車(EV)、医療機器向けの製品を製造しており、今回の新工場は北米市場における供給能力の強化を目的としたものと考えられます。

戦略的拠点としての「サンタテレサ」の地理的優位性

今回の進出先であるサンタテレサは、メキシコとの国境に位置する、近年開発が進む工業・物流地帯です。隣接するメキシコのシウダー・フアレスには、多くの製造拠点(マキラドーラ)が集積しており、両国間のサプライチェーンにおいて極めて重要な結節点となっています。特に、大手鉄道会社ユニオン・パシフィック鉄道の基幹施設があり、鉄道とトラック輸送を組み合わせた複合一貫輸送のハブとして機能している点は、製造業にとって大きな魅力です。製品や部材を効率的に北米全土へ輸送できるこの立地は、生産拠点を選定する上で非常に有利な条件と言えるでしょう。日本の製造業が北米での生産・物流体制を検討する際にも、このような国境地域の物流インフラの重要性は見逃せないポイントです。

ニアショアリングを後押しする政府の支援策

この工場誘致は、単に企業の経営判断だけで実現したものではありません。ニューメキシコ州の経済開発省が、州の経済開発促進法(LEDA)に基づき、インフラ整備のために50万ドルの資金援助を行うことを決定しています。これは、近年の地政学リスクの高まりや物流の混乱を受け、米国が国内および近隣国での生産体制(リショアリング、ニアショアリング)を強化しようとする大きな流れを反映した動きです。連邦政府だけでなく、州政府レベルでも製造業の誘致に積極的なインセンティブを用意しており、こうした公的支援が企業の大型投資の決断を後押ししています。サプライチェーンの強靭化は、今や一企業の課題ではなく、国家的な戦略課題となっていることの証左と言えます。

日本の製造業への示唆

今回の事例は、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. サプライチェーンの地理的再編の加速:
アジアからの長いサプライチェーンに依存するリスクが再認識される中、北米市場においてはメキシコや米国国境地域を生産拠点とする「ニアショアリング」が現実的な選択肢として本格化しています。自社のグローバル生産体制を見直す上で、消費地に近い場所での生産という選択肢を具体的に検討すべき時期に来ていると言えるでしょう。

2. 官民連携による投資促進:
大規模な工場建設や移転には、多額の初期投資が伴います。進出先の国や地方自治体が提供する補助金、税制優遇、インフラ整備支援といったインセンティブを最大限に活用することは、投資回収の観点からも不可欠です。海外進出を検討する際は、各地域の支援制度について詳細な調査が求められます。

3. 物流インフラの戦略的重要性:
工場の生産性だけでなく、製品や部材をいかに効率的かつ安定的に輸送できるかという物流網の視点が、拠点選定においてますます重要になっています。特に、鉄道、港湾、高速道路網へのアクセスは、リードタイムの短縮とコスト削減に直結します。今回のサンタテレサの事例は、物流結節点としての立地の優位性を明確に示しています。

4. 顧客の動きへの追随:
Admiral Cable社が製造する製品は、家電やEVといった最終製品に組み込まれる部品です。これは、最終製品メーカーのサプライチェーン再編の動きに、部品サプライヤーが追随する必要があることを示唆しています。自社の都合だけでなく、主要顧客の生産戦略の変化を的確に捉え、連携して供給体制を構築していく視点が不可欠です。

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