近年、インドをはじめとする新興国において、中小製造業によるERP(統合基幹業務システム)の導入が活発化しています。本記事では、インドの事例を参考にしながら、日本の製造業が自社のデジタル化を考える上で重要となる視点を解説します。
インド中小製造業におけるERP導入の背景
今回参照した記事は、インドの中小製造業向けのERPソフトウェアについて解説したものです。特に「生産管理」と「品質管理」が重要な機能として挙げられており、これは製造業の根幹をなす業務領域です。インドのような急速な経済成長を遂げる国では、国内および国際的な競争が激化しており、中小企業といえども、生産性の向上、品質の安定化、そしてサプライチェーン全体の効率化が喫緊の課題となっています。このような背景から、従来は大企業のものであったERPを、より手頃なクラウドサービスなどを活用して導入し、経営基盤を強化しようという動きが加速しているものと考えられます。
これは、我々日本の製造業、特に中小規模の事業者にとっても決して他人事ではありません。人手不足や熟練技術者の高齢化、そして顧客からの短納期・高品質要求といった課題に直面する中で、デジタル技術を活用した業務プロセスの標準化と可視化は、避けては通れないテーマと言えるでしょう。
なぜ「生産管理」と「品質管理」が核となるのか
ERPが持つ機能は多岐にわたりますが、製造業が導入を検討する際、その中核となるのはやはり生産管理と品質管理です。これらの機能がなぜ重要視されるのか、改めて整理してみましょう。
まず生産管理では、受注情報から生産計画を立案し、必要な資材を算出して手配(MRP)、そして現場での製造指示や工程進捗の管理、実績収集までを一気通貫で行います。これにより、勘や経験に頼っていた生産計画をデータに基づいて最適化し、リードタイムの短縮や在庫の削減につなげることが可能になります。Excelの進捗管理表や現場ごとの日報といった属人的な管理方法から脱却し、工場全体の状況をリアルタイムに把握できるようになるのです。
一方の品質管理では、製品の検査記録や不適合品の情報をデータとして蓄積し、トレーサビリティを確保します。万が一、市場で品質問題が発生した際に、どの材料を使い、どの工程で、いつ製造された製品なのかを迅速に特定できる体制は、企業の信頼を維持する上で不可欠です。また、蓄積された品質データを分析することで、特定の工程や設備に起因する不良の傾向を掴み、根本的な原因究明と再発防止策の策定に役立てることもできます。
これら二つの機能がERP上で統合されていることで、例えば「特定の材料ロットを使用した製品群で品質不良が多発している」といった、生産と品質を横断した分析が可能になる点が大きな利点です。
日本の現場への示唆:レガシーからの脱却
日本の製造現場では、長年培われてきた独自の業務プロセスが存在し、それを支えるための部門最適化されたシステムやExcelシートが数多く稼働しているケースが少なくありません。これらは現場の工夫の賜物である一方、全社的なデータの連携や活用を阻む壁となっている側面も否めません。
インドのような新興国では、こうした「レガシーシステム」が存在しないため、最初からクラウドベースの最新ERPを導入し、標準化された業務プロセスを構築しやすいという利点があります。いわゆるリープフロッグ(蛙飛び)現象です。この事実は、既存のやり方に固執することのリスクを我々に示唆しています。自社の強みである「現場力」や「改善活動」を活かしつつも、その基盤となる業務プロセスやデータ管理の仕組みを、より標準的で拡張性の高いものへと見直していく視点が今、求められています。
日本の製造業への示唆
今回のインドの事例から、日本の製造業、特に経営層や現場リーダーの方々が得られる実務的な示唆を以下に整理します。
1. スモールスタートでのERP導入を検討する
全社一斉のシステム刷新は、コストも時間もかかり、現場の抵抗も大きくなりがちです。まずは、最も課題の大きい「生産管理」や「品質管理」といった領域に絞って、クラウドベースのERPを導入してみるというアプローチが有効です。成功体験を積み重ねながら、適用範囲を段階的に広げていくことが、着実なデジタル化への近道となります。
2. 業務プロセスの標準化を恐れない
ERP導入は、単なるツール導入ではなく、業務プロセスを見直す良い機会です。自社の独自プロセスにシステムを無理に合わせるのではなく、ERPが提供する標準的な業務フロー(ベストプラクティス)に自社の業務を合わせることで、属人化を排除し、効率的な業務運営を実現できる可能性があります。もちろん、自社の競争力の源泉となっている独自のノウハウは維持すべきですが、それ以外の部分は標準化を積極的に検討する価値があります。
3. データ活用の視点を持つ
ERPは、日々の業務を効率化するだけでなく、経営判断に役立つデータを蓄積する「器」でもあります。生産実績、不良率、設備稼働率といったデータを正確に収集・蓄積し、それらを分析することで、これまで見えなかった課題を発見し、データに基づいた改善活動へとつなげることができます。システム導入そのものを目的とせず、その先にあるデータ活用までを見据えた計画を立てることが重要です。


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