穀物大手のADM社と化学・農業技術大手のバイエル社が、インドで展開する持続可能な大豆生産プログラムの拡大を発表しました。この取り組みは、環境負荷の低減と農家の収益性向上を両立させるものであり、日本の製造業におけるサプライチェーン管理やサステナビリティ調達のあり方を考える上で、示唆に富む事例と言えるでしょう。
ADMとバイエルによる協業プログラムの概要
米国の穀物メジャーであるADM社と、ドイツの化学・製薬大手バイエル社は、インドにおいて持続可能な農法による大豆生産を支援する共同プログラムを拡大することを発表しました。このプログラムは、インド中部のマハーラーシュトラ州とカルナータカ州の約10万エーカー(約4万ヘクタール)の農地で、2万5,000戸以上の大豆農家を対象としています。
両社の役割分担は明確です。バイエル社は、優良な種子や農薬の提供に加え、各農家の土壌や気候に合わせた栽培管理手法、収穫前使用禁止期間(プレハーベスト・インターバル)や生物多様性に配慮した農薬の散布計画、デジタル農業ソリューションなどの技術的知見を提供します。一方、ADM社は、農家への技術指導や市場へのアクセスを保証し、生産された大豆を買い取ることで、サプライチェーン全体を管理します。これにより、農家は収量の増加と収益性の向上を実現しながら、環境負荷の低い農業を実践することが可能になります。
サプライチェーンにおける価値共創と透明性の確保
この取り組みの核心は、単なる原材料の調達に留まらず、サプライチェーンの源流である農家の生産段階から深く関与し、価値を共創しようとする姿勢にあります。農家にとっては、最新の農業技術や知見にアクセスできるだけでなく、安定した販路が確保されるという経済的なメリットがあります。一方、ADM社にとっては、持続可能な方法で生産された、トレーサビリティの高い大豆を安定的に確保できるという利点があります。
これは、製造業における「サプライヤー育成」の考え方を、より広範なグローバルサプライチェーンに適用した事例と捉えることができます。特に食品や化学品など、原材料の品質や由来が製品価値に直結する業界では、このような源流管理の重要性が一層高まっています。消費者や投資家からのESG(環境・社会・ガバナンス)への要請が強まる中、サプライチェーン全体の透明性と持続可能性を証明することは、企業の競争力を左右する重要な要素となりつつあります。
生産管理とデジタル技術の活用
本プログラムでは、個々の農家に対してカスタマイズされた生産管理手法が提供される点が特徴的です。これは、画一的な指導ではなく、現地の土壌や気象データ、生育状況などに基づいた、きめ細かな対応が行われることを意味します。背景には、バイエル社が持つデジタル農業プラットフォームなどの技術活用があると考えられます。
日本の製造現場では、個々の生産ラインや設備の状態をセンサーで監視し、得られたデータに基づいて最適な運転条件を導き出すといった取り組みが進められています。今回の事例は、そうしたデータドリブンな生産管理のアプローチを、天候など不確実性の高い要素を含む「農業」というフィールドに展開し、サプライチェーンの最上流における品質と生産性の安定化を図る試みとして、非常に興味深いものです。
日本の製造業への示唆
今回のADM社とバイエル社の取り組みは、日本の製造業にとっても多くの実務的なヒントを与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. サプライチェーンの源流管理とトレーサビリティの強化
製品の最終的な品質や安全性、そして企業の社会的責任を担保するためには、二次・三次サプライヤー、さらには原材料の生産段階まで遡った管理と可視化が不可欠です。特に海外からの調達においては、現地のパートナーと連携し、生産者の顔が見える関係を構築することが、リスク管理と安定調達の両面で重要となります。
2. サプライヤーとの共存共栄(パートナーシップ)
サプライヤーを単なる「調達先」ではなく、共に価値を創造する「パートナー」と位置づける視点が求められます。技術支援や経営ノウハウの提供を通じてサプライヤーの競争力向上を支援することは、巡り巡って自社のサプライチェーン強靭化に繋がります。短期的なコスト削減だけでなく、長期的視点での関係構築が重要です。
3. 異業種連携による課題解決
自社だけでは解決が難しい課題に対し、異なる専門性を持つ企業と連携する「オープンイノベーション」のアプローチは、サプライチェーン管理においても有効です。今回の事例のように、商社・加工メーカー(ADM)と技術・ソリューションプロバイダー(バイエル)が組むことで、複雑な課題に対して多角的な解決策を提供することが可能になります。
4. サステナビリティと経済合理性の両立
持続可能性への取り組みは、コスト増を伴うCSR活動という側面だけではありません。生産性の向上や品質の安定、新たな市場アクセスの確保など、事業の成長に直結する経済的なメリットを生み出す「攻めの経営戦略」として捉え、積極的に推進していくことが、これからの製造業には求められるでしょう。


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