タイの農業協同組合省が、地域の協同組合などを集配送センターとして活用する方針を打ち出しました。この一見、縁遠いニュースは、実は日本の製造業におけるサプライチェーンのあり方を考える上で、重要なヒントを含んでいます。
タイ農業分野におけるサプライチェーン効率化の動き
先日、タイの農業協同組合省が、国内の農業生産性向上とサプライチェーンの効率化を目的としたタスクフォースを設立したことが報じられました。その施策の中で特に注目されるのが、「地域の協同組合やコミュニティ企業を、その地域の集荷・配送センターとして機能させる」という構想です。これは、点在する個々の農家から生産物を集約し、一括して管理・出荷する仕組みを強化することで、物流の効率化とコスト削減を図る狙いがあるものと考えられます。
従来、個々の生産者がそれぞれで出荷を行っていた場合、トラックの積載効率は上がらず、輸送コストが割高になる傾向がありました。地域の協同組合がハブとして機能することで、計画的な集荷と共同での配送が可能となり、サプライチェーン全体の最適化が期待されます。これは農業分野に限らず、多くの産品を取り扱う製造業にとっても示唆に富む取り組みと言えるでしょう。
「共同化」という発想がもたらすメリット
タイでのこの動きは、製造業における「物流の共同化」の重要性を改めて浮き彫りにします。例えば、特定の工業団地内や近隣地域に立地する複数の企業が、共同で倉庫を契約したり、特定の方面へのトラック便を共同で手配したりする「共同保管・共同配送」は、その典型例です。
個々の企業で物量を見ると半端なサイズであっても、複数社でまとめることで、大型トラックを効率的に活用でき、一社あたりの物流コストを大幅に削減できる可能性があります。特に、物流の「2024年問題」に直面し、輸送能力の確保とコスト上昇への対応が急務となっている我が国の製造業にとって、この「共同化」という発想は、避けては通れないテーマになりつつあります。
また、メリットはコスト面に限りません。共同配送によるトラック台数の削減は、CO2排出量の削減にも直結し、企業の環境負荷低減の取り組みにも貢献します。さらに、災害時など有事の際には、地域企業間で輸送手段を融通し合うといった協力体制が、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に有効です。サプライチェーンの効率化と強靭化(レジリエンス)を同時に追求できるのが、地域連携・共同化の大きな魅力です。
自社完結から地域連携への視点転換
これまでの日本の製造業は、系列内での垂直統合や、自社最適を追求するサプライチェーン構築を得意としてきました。しかし、事業環境が複雑化し、予測困難な時代においては、自社だけで全てを完結させるモデルには限界が見え始めています。
今回のタイの事例は、地域の既存リソース(協同組合など)をサプライチェーンの重要な結節点として再定義し、活用しようとするものです。これを日本の製造業に置き換えれば、地域の同業者や異業種の企業、あるいは地域の運輸・倉庫会社といった「ご近所」との連携を、より戦略的に検討する価値があることを示唆しています。自社の枠を超え、地域全体で最適な生産・物流体制を構築するという視点が、今後の競争力を左右する重要な要素となるかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回のタイ農業協同組合省の取り組みから、日本の製造業が学ぶべき要点と実務的な示唆を以下に整理します。
1. 地域リソースの再評価と活用:
自社の近隣にある企業や業界団体、共同組合などを、単なる取引先や競合としてだけでなく、物流や保管、場合によっては部材の共同調達などで連携できるパートナーとして再評価する視点が重要です。特に地方の工場においては、地域内での連携が人手不足や物流コストといった共通課題の解決策となり得ます。
2. 物流の「共同化」によるコスト削減とBCP強化:
納品先や仕入先が共通する近隣企業と、共同配送や共同保管の可能性を具体的に検討することが求められます。これは「2024年問題」への直接的な対策となるだけでなく、輸配送ネットワークの多重化につながり、災害時などにおけるサプライチェーンの寸断リスクを低減させる効果も期待できます。
3. オープンな連携へのマインドセット:
従来の自社最適・系列最適の発想から一歩踏み出し、地域の他社と情報を共有し、協力体制を築くオープンな姿勢が不可欠です。まずは地域の業界団体や商工会議所などの場を活用し、共通の課題について対話することから始めるのが現実的な一歩となるでしょう。


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