再生可能エネルギーの貯蔵技術として注目されるスタートアップ、Fourth Power社が、米国マサチューセッツ州に先進的な製造施設を設立することを発表しました。リチウムイオン電池の10分の1以下のコストを目指す「サーマルバッテリー(熱電池)」の社会実装に向け、生産体制の構築が本格化します。
再生可能エネルギー貯蔵の新たな担い手「サーマルバッテリー」
Fourth Power社は、太陽光や風力といった変動の大きい再生可能エネルギーを安定的に利用するための、新しいエネルギー貯蔵技術を開発するスタートアップ企業です。同社が注力するのは「サーマルバッテリー(熱電池)」と呼ばれる仕組みで、余剰電力を熱エネルギーに変換して蓄え、必要な時に再び電力として取り出す技術です。
その核となる技術は、非常にユニークです。まず、安価で豊富に存在する黒鉛(グラファイト)のブロックを電気抵抗で加熱し、2,400℃という超高温状態にします。この熱を、配管内を循環する液体金属(スズ)に伝えます。エネルギーを取り出す際には、この高温の液体金属が発する光(熱放射)を、太陽光発電と同じ原理の光起電力(PV)セルに当てて発電します。リチウムやコバルトといった希少金属に依存せず、低コストで10時間から100時間といった長時間のエネルギー貯蔵を実現できる可能性があるとして、大きな期待が寄せられています。
マサチューセッツ州に構える先進製造拠点
報道によれば、Fourth Power社はマサチューセッツ州ベッドフォードに新たな製造施設を設立します。この拠点は「先進的な製造施設(advanced manufacturing facility)」と表現されており、単なる量産工場ではなく、研究開発から試作、そして初期量産までを担う、いわばマザー工場としての役割を持つものと推測されます。革新的な技術を製品として具現化するためには、製造プロセスの確立が不可欠であり、この新拠点がその中核を担うことになります。
近年、米国ではエネルギー安全保障の観点から、先端技術の国内生産回帰を推進する動きが活発です。今回のFourth Power社の拠点設立も、こうした大きな潮流の中に位置づけることができるでしょう。基礎研究から製品化、そしてサプライチェーン構築までを国内で完結させようという意図がうかがえます。
製造現場に求められる高度なプロセス技術
このサーマルバッテリーの製造には、極めて高度な生産技術が求められます。特に、2,400℃という超高温環境をいかに安定的に制御し、安全を確保するかは大きな課題です。耐熱・断熱材の選定と施工、精密な温度管理システムの構築、そして高温の液体金属を扱うためのシーリング技術や搬送プロセスなど、解決すべき技術的ハードルは少なくありません。
また、システムの心臓部である光起電力セルや黒鉛ブロック、液体金属といった部材の品質管理も重要になります。特に、部材の純度や特性のばらつきは、システム全体の効率や寿命に直結します。異物混入を防ぐクリーンな環境の維持や、各部材の受け入れ検査基準の策定など、日本の製造業が長年培ってきた品質保証の知見が活かされる領域と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のFourth Power社の動きは、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
1. エネルギー貯蔵技術の多様化への備え
世界のエネルギー貯蔵市場は、リチウムイオン電池が主流ですが、コストや資源、安全性の観点から、熱、重力、水素など多様な技術開発が進んでいます。自社が持つ材料技術やプロセス技術が、こうした新しいエネルギー分野で応用できないか、多角的に検討する価値は大きいでしょう。
2. 超高温プロセスを支える周辺技術のビジネスチャンス
サーマルバッテリーの実用化には、超高温に耐えるセラミックスや断熱材、高精度のセンサー、特殊なポンプやバルブといった周辺技術・部材が不可欠です。こうした分野は、日本の素材メーカーや装置メーカーが得意とするところであり、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
3. 「つくる技術」の価値の再認識
いかに革新的なアイデアであっても、それを安定した品質で、かつ経済的に見合うコストで製造できなければ社会実装は進みません。Fourth Power社が自社で製造拠点を構えることからも、生産技術の確立を極めて重視していることがわかります。設計開発と製造現場が一体となって課題を解決していく「すり合わせ」の能力は、今後も製造業における競争力の源泉であり続けるでしょう。


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