金融大手ゴールドマン・サックスの求人情報から、ミッションクリティカルなシステムを支える「生産管理」の思想が垣間見えます。今回は、製造業の工場運営やBCP(事業継続計画)にも通じる、2拠点・24時間体制の考え方について考察します。
金融業界における「生産管理」とは
先日公開された金融大手ゴールドマン・サックスのシステムエンジニアの求人情報に、「AppBank Operations is a 24×7, two city model unified production management team」という一文がありました。ここで言う「production management(生産管理)」とは、製造業で使われる言葉とは少し意味合いが異なります。これは、金融取引を支える基幹的なビジネスアプリケーション、つまりITシステムの安定稼働を責務とする運用管理チームを指しています。グローバルな金融市場の根幹を支えるシステムを、絶対に止めないという強い意志が込められた言葉と言えるでしょう。これは、工場の生産ラインを絶対に止めない、という製造現場の使命感と本質的に通じるものがあります。
「2拠点・24時間365日」体制の狙い
特に注目すべきは、「24×7, two city model(24時間365日、2都市モデル)」という体制です。これは、文字通り2つの異なる都市に拠点を置き、連携しながら24時間体制でシステムを運用・監視する仕組みを意味します。この体制には、主に2つの重要な目的があると考えられます。
一つは、事業継続性(BCP)の確保です。一方の拠点が災害や大規模なシステム障害に見舞われて機能不全に陥ったとしても、もう一方の拠点が即座に業務を引き継ぐことで、事業への影響を最小限に食い止めます。これは、製造業において、国内の複数工場で同じ製品を製造できる体制を整えたり、海外に代替生産拠点を設けたりする考え方と全く同じです。
もう一つは、グローバルなビジネスへの対応です。時差の異なる2拠点が連携することで、世界のどこかで市場が開いている限り、常にどこかのチームが日中の活動時間帯に対応できる「フォロー・ザ・サン」と呼ばれるモデルを構築できます。これにより、深夜労働を最小限に抑えながら、24時間体制のサポートを実現しているのです。
「統一された」チーム運営の重要性
求人情報にある「unified(統一された)」という言葉も示唆に富んでいます。拠点が物理的に離れていても、チームとしては一体として機能しなければ意味がありません。そのためには、運用手順、障害発生時の対応フロー、使用するツール、情報共有のプラットフォームなどが、拠点間で完全に標準化・統一されている必要があります。そうでなければ、いざという時の拠点切り替えや業務の引き継ぎがスムーズに進まず、混乱を招くだけです。これは、製造業における「標準作業」の思想そのものです。どの工場、どのライン、どの作業者が担当しても、同じ品質の製品を同じ効率で生産するための基盤が標準化であることと、何ら変わりはありません。
日本の製造業への示唆
今回の金融業界の事例は、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 事業継続計画(BCP)の再評価
自然災害の多い日本では、単一拠点での生産に依存するリスクは常に存在します。重要部品の供給や基幹製品の生産について、物理的に離れた拠点での代替生産や機能分散がどの程度可能か、改めて検証する価値は高いでしょう。それは必ずしも自社工場だけでなく、協力会社との連携も含めたサプライチェーン全体で考えるべき課題です。
2. スマート工場におけるITインフラの重要性
工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むほど、生産設備だけでなく、それを制御・監視するITシステムの安定稼働が工場の生命線となります。金融業界がITシステムの運用を「生産管理」と呼ぶように、製造業もITインフラの監視・保守体制を工場運営の根幹と位置づけ、その冗長性や24時間体制での対応を検討していく必要があるでしょう。
3. 複数拠点運営における「標準化」の徹底
国内外に複数の生産拠点を持つ企業にとって、拠点間で品質や生産性にばらつきが出ることは長年の課題です。真に強靭な生産体制を築くためには、業務プロセスや管理手法、人材育成に至るまで、拠点間で連携可能な「標準」を定め、それを徹底して浸透させることが不可欠です。異業種の事例ではありますが、今回の金融業界の「統一されたチーム」という考え方は、その重要性を再認識させてくれます。


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