インド政府が、国内の電子部品製造を促進するため、総額46億ドルに上る大規模なプロジェクトを承認しました。この動きは、巨大市場インドにおけるサプライチェーンの国内完結を目指す国家戦略の一環であり、日本の製造業にとっても無視できない重要な変化と言えるでしょう。
インド政府、電子部品分野への大規模投資を承認
インド政府は、国内の電子部品製造能力を強化するため、総額46億ドル(約6,900億円規模)に及ぶ複数のプロジェクトを承認したと報じられました。この投資は、通信機器、家電、自動車、ITハードウェアといった幅広い製品分野の基幹部品を対象としており、インドがエレクトロニクス分野のサプライチェーン全体を国内で構築しようとする強い意志の表れと見られます。
これまでインドは、完成品の組立工場は誘致してきたものの、その心臓部である電子部品の多くを輸入に依存していました。今回の決定は、この構造を根本から変え、国内での付加価値を高めるための戦略的な一歩と位置づけられています。
背景にある国家戦略「Make in India」とPLIスキーム
この動きの背景には、モディ政権が推進する「Make in India(インドで製造せよ)」政策があります。特に、生産連動型優遇策(PLI: Production Linked Incentive)スキームは、インド国内での生産額に応じて補助金を支給するもので、外資企業の誘致と国内製造業の育成を強力に後押ししてきました。
また、地政学的な観点から、特定の国へのサプライチェーン依存を低減し、経済安全保障を強化する狙いも大きいと考えられます。巨大な国内市場を抱えるインドにとって、電子部品の国産化は、産業の自立と安定供給を確保するための重要な課題となっています。
日本の製造現場から見たインド市場の機会と課題
14億人を超える人口を抱えるインド市場は、日本の製造業にとって大きな潜在力を持つことは間違いありません。特に、自動車産業や家電産業では、すでに多くの日系企業が進出し、現地のニーズに合わせた生産活動を行っています。今回の電子部品への投資拡大は、これらの産業にとっても、現地調達率の向上やサプライチェーンの強靭化につながる可能性があります。
一方で、実務的な課題も存在します。インドにおける工場運営では、インフラの安定性、熟練労働者の確保と育成、そして日本レベルの品質管理体制をいかに現地に根付かせるかといった点が常に問われます。特に電子部品のような精密なものづくりにおいては、サプライヤーの品質レベルの底上げや、緊密な連携が不可欠であり、一朝一夕に構築できるものではありません。日本の製造業が得意とする「カイゼン」活動や、サプライヤーと一体となった品質文化の醸成が、成功の鍵を握ることになるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のインド政府の決定は、世界のサプライチェーンにおけるインドの存在感が、今後さらに増していくことを示唆しています。日本の製造業関係者は、この変化を冷静に捉え、自社の戦略にどう活かすかを検討する必要があります。
1. インド市場の再評価: これまでインドを組立拠点や販売市場としてのみ捉えていた企業も、基幹部品の生産・調達拠点としての可能性を再評価する時期に来ています。特に「チャイナ・プラスワン」の有力な選択肢として、その重要性は増しています。
2. PLIスキームなど政策動向の注視: インド政府の優遇策(PLIスキームなど)は、投資判断における重要な要素です。対象分野や条件といった最新の情報を継続的に収集し、自社の事業に適用可能かを見極めることが求められます。
3. 現地での品質・生産体制構築の具体化: インドでの事業展開を検討する際は、単なるコストメリットだけでなく、品質管理、人材育成、サプライヤー網の構築といった、ものづくりの根幹に関わる課題への具体的な対応策を事前に練り上げることが不可欠です。すでに進出している企業の知見を参考にしつつ、自社に合った現実的な計画を立てる必要があります。
インドの製造業振興策は、日本の製造業にとって、新たな事業機会であると同時に、グローバルな競争環境の変化に対応していくための試金石とも言えるでしょう。


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