金属アディティブ・マニュファクチャリング(AM)の実用化が進む中、その品質と効率をいかに両立させるかが重要な課題となっています。このたび、アーク溶接を応用したWAAM方式において、人工ニューラルネットワーク(AI)を用いて機械的特性と材料効率を予測・最適化する研究が発表され、注目されます。
はじめに:実用化が進む金属AMとその課題
試作品の製作期間短縮や、複雑形状部品の一体造形、あるいは補修部品のオンデマンド生産など、金属アディティブ・マニュファクチャリング(AM)、いわゆる金属3Dプリンティング技術への期待は、日本の製造現場においても日増しに高まっています。特に、アーク溶接を熱源とするワイヤーアーク式AM(WAAM: Wire Arc Additive Manufacturing)は、レーザーや電子ビームを用いるパウダーベッド方式に比べて造形速度が速く、大型部品の製造に適していることから、幅広い分野での活用が見込まれています。
しかしその一方で、WAAMには実用化に向けた課題も残されています。溶接ワイヤーを溶かしながら積層していくプロセスは、電流、電圧、ワイヤー送給速度、トーチの移動速度といった無数のパラメータが複雑に絡み合い、最終的な製品の寸法精度や機械的強度(品質)に大きく影響します。最適な製造条件を見出すには、熟練技術者による多くの試行錯誤が必要となり、それが開発リードタイムの長期化やコスト増の一因となっていました。
研究の概要:AIを用いたWAAMプロセスの最適化アプローチ
学術誌「PLOS One」に掲載された新しい研究では、この課題に対する一つの解決策が示されました。研究チームは、「エッジ集束型WAAM(EF-WAAM)」と呼ばれる手法を用い、一般的な構造用鋼(CT38鋼)と溶加材(ER70S-6)を使って積層造形を行いました。この研究の核心は、そのプロセスにおいて人工ニューラルネットワーク(ANN)、すなわちAIの一手法を導入した点にあります。
具体的には、様々なパラメータで造形したサンプルの実験データをAIに学習させ、「応力-ひずみ関係(材料の強さや粘りを示す重要な機械的特性)」と「質量効率(投入した材料のうち、どれだけが有効に製品となったかを示す指標)」という2つの重要なアウトプットを予測するモデルを構築しました。これにより、無数にあるパラメータの組み合わせの中から、目標とする品質と効率を達成できる最適な条件を、試作を繰り返すことなく予測することが可能になるといいます。
なぜAI(人工ニューラルネットワーク)が有効なのか
製造現場の技術者の方であれば、溶接条件を少し変えるだけで溶け込み深さやビード形状が大きく変化することを経験的にご存知でしょう。WAAMのプロセスも同様に、各パラメータが相互に影響しあう「非線形」な関係にあります。このような複雑な現象を、単純な数式でモデル化することは非常に困難です。
人工ニューラルネットワーク(ANN)は、まさにこのような複雑な関係性を、大量のデータから自ら学習し、高精度な予測モデルを構築することを得意としています。人間の脳の神経回路網を模したこの技術は、入力(製造パラメータ)と出力(品質・効率)の間の複雑な因果関係を捉えることができます。この研究は、AMプロセスという複雑系の現象解明と制御において、AIが強力なツールとなり得ることを実証したと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
この研究は、金属AM技術の導入や活用を検討している日本の製造業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
要点
- プロセス最適化の重要性:金属AMは、装置を導入すればすぐに高品質なものが造れるわけではありません。材料と造形物に合わせた最適なプロセス条件を見出すノウハウこそが、競争力の源泉となります。
- AIによる開発の加速:AIを活用することで、これまで熟練者の経験と勘に頼りがちだったパラメータ最適化のプロセスを、データドリブンに、かつ迅速に行える可能性が示されました。これは開発期間の短縮とコスト削減に直結します。
- 品質の安定化と信頼性向上:データに基づいたプロセス制御は、属人性を排し、安定した品質の製品を再現性よく製造するための基盤となります。これは特に、最終製品へのAM適用を考える上で不可欠な要素です。
実務への示唆
金属AMの導入を検討する際には、ハードウェアの性能だけでなく、それをいかに使いこなすかという「ソフトウェア」や「データ活用」の視点を併せ持つことが極めて重要です。自社が持つ材料技術や溶接・加工技術といった既存の知見と、AIのような新しいデジタル技術をいかに融合させていくかが、今後のものづくりにおける差別化の鍵となるでしょう。
また、AMのような新しい技術だけでなく、既存の製造工程においても、各種センサー等でデータを収集・蓄積し、AIで解析する試みは有効です。小さなところからでもデータ活用の文化を醸成していくことが、将来の大きな変化に対応するための備えとなるのではないでしょうか。


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