トルコのガラス大手シシェジャムの戦略転換に見る、製造業の次の一手

global

世界有数のガラスメーカーであるトルコのシシェジャム社が、高付加価値製品への注力を鮮明にしています。汎用品市場での競争が激化する中でのこの戦略は、同様の課題に直面する日本の製造業にとって、事業の舵取りを考える上で重要な示唆を与えてくれます。

世界的なガラス大手の新たな方向性

トルコを拠点とし、世界規模で事業を展開するガラス製品の総合メーカー、シシェジャム(Şişecam)社が、中期的な経営戦略として高付加価値製品分野への取り組みを強化する方針を改めて示しました。具体的には、建築や自動車向けに需要が高まる「コーティング板ガラス」などのセグメントに、より深く進出することを目指しています。これは、汎用的な製品の大量生産から、技術的な優位性を活かせる高機能・高収益製品へと事業の軸足を移そうとする明確な意思表示と言えるでしょう。

なぜ「高付加価値」を目指すのか

シシェジャム社のような巨大企業がこのような戦略転換を図る背景には、多くの製造業が直面している共通の課題が存在します。一つは、新興国メーカーの台頭による汎用品市場での価格競争の激化です。もう一つは、エネルギー価格の高騰をはじめとする製造コストの上昇圧力です。こうした環境下で収益性を維持・向上させるためには、単なる規模の経済を追求するだけでなく、技術的な差別化によって高い利益率を確保できる製品ポートフォリオを構築することが不可欠となります。

例えば、「コーティング板ガラス」は、ガラス表面に特殊な金属膜などをコーティングすることで、断熱性や遮熱性、UVカットといった機能を付与した製品です。省エネルギーへの関心の高まりを背景に、建築物の窓や自動車のガラスとしての需要が世界的に伸びています。このような市場のニーズを的確に捉え、自社の基盤技術(ガラス溶融・成形技術)に新たな技術(薄膜形成技術)を組み合わせることで、付加価値の高い製品を生み出そうという狙いが見て取れます。

日本の現場における技術的視点

この動きは、日本の製造業、特に素材や部品メーカーにとって決して他人事ではありません。「汎用品から高付加価値品へ」というスローガンは長年叫ばれていますが、シシェジャム社の事例は、それを中期的な経営目標として具体的に設定し、外部にも公表している点に注目すべきです。経営層が明確な方針を示すことで、研究開発や設備投資の方向性が定まり、現場の技術者も目標達成に向けた具体的な課題に取り組むことができます。

現場レベルでは、既存の生産プロセスをいかにして高度化するかが問われます。コーティングのような後工程を追加する場合、既存のラインとの連携や、新たな品質管理基準の導入が必要となります。特に、高機能製品はわずかなプロセスのばらつきが性能に大きく影響するため、より精密な工程管理と検査技術が求められます。これは、日本の製造現場が伝統的に得意としてきた「カイゼン」や品質管理のノウハウを、新たな次元で活かす好機とも言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

シシェジャム社の戦略から、日本の製造業が学ぶべき要点は以下の3点に整理できます。

1. 事業ポートフォリオの再評価と戦略的シフト
自社が競争力を発揮できる領域はどこか、改めて見直す時期に来ています。利益率の低い汎用品市場での消耗戦を続けるのではなく、技術的優位性を活かせる高機能製品やニッチ市場へ、経営資源を戦略的に再配分する決断が求められます。

2. 市場ニーズを起点とした技術開発
省エネや環境対応、デジタル化といった社会全体の大きな潮流の中に、新たな事業機会が眠っています。顧客が真に求めている「価値」は何かを深く洞察し、それを実現するための技術開発に注力することが、持続的な成長の鍵となります。

3. 経営ビジョンと現場力の連携
経営層は、市況の変化を捉えて「どの山に登るか」という明確なビジョンを打ち出す必要があります。そして、そのビジョンを現場の技術者やリーダーが共有し、「どうやって登るか」という具体的な技術課題や生産プロセスの改善に落とし込んでいく。この経営と現場の一体となった取り組みこそが、厳しい事業環境を乗り越えるための原動力となるはずです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました