米国ミズーリ州で、製造業者が事業で使用する電気、ガス、水道などの光熱水費に対する売上税を免除する法案が提出されました。この動きは、州内の製造業のコスト競争力を高め、国内へのサプライチェーン回帰(リショアリング)を促進する狙いがあります。本稿では、この法案の概要と、日本の製造業にとっての示唆を解説します。
法案の概要:製造業の操業コストを直接的に削減
米ミズーリ州のトリシア・バーンズ下院議員が提出した法案「HB 2646」は、製造業者が生産活動のために使用する電気、ガス、水道、その他のユーティリティ(光熱水)にかかる州および地方の売上税を免除することを目的としています。これは、製造業の操業コストに直接的な影響を与える、非常に具体的な支援策と言えます。
製造業、特にプロセス産業や大規模な組立産業にとって、エネルギーコストは生産コスト全体のかなりの部分を占めます。このコストを税制面から引き下げることで、企業の収益性を改善し、その原資を賃上げ、設備投資、研究開発などに再投資することを促す狙いがあります。また、コスト競争力が高まることで、製品価格の引き下げ余力が生まれ、市場での競争優位性を確保することにも繋がります。
法案提出の背景:州レベルでの競争と国内回帰の潮流
この法案が提出された背景には、二つの大きな流れがあります。一つは、米国内の「州間競争」です。報道によれば、米国の多くの州では既に同様の免税措置が導入されており、ミズーリ州は近隣州との企業誘致合戦において不利な立場にありました。優秀な企業を州内に留め、新たな投資を呼び込むためには、他州と同等かそれ以上の魅力的な事業環境を整備する必要があるという判断が働いています。
もう一つは、パンデミックや地政学リスクの高まりを受けて加速している「サプライチェーンの国内回帰(リショアリング)」という世界的な潮流です。米国政府は国を挙げて国内製造業の強化を進めており、各州もその受け皿となるべく、独自の支援策を打ち出しています。今回の法案は、この大きな流れの中で、ミズーリ州が製造拠点の候補地として選ばれるための具体的な一手と位置づけられます。
これは、日本国内で地方自治体が工場の誘致や設備投資を促すために、補助金や固定資産税の減免といった優遇措置を設ける構図と非常によく似ています。特に近年では、半導体やバッテリーといった戦略物資の生産拠点誘致が国策レベルで進められており、税制や補助金といった政策が企業の立地決定に与える影響はますます大きくなっています。
コスト削減効果が地域経済へ波及するストーリー
法案の目的には「家族のコストを削減する(Cut Costs for Families)」という一文も含まれています。これは、製造業支援が単なる企業優遇策ではなく、地域経済全体、ひいては住民の生活向上に繋がるという政策的なストーリーを示しています。
具体的には、製造業のコストが下がれば、製品価格の安定化に繋がり、インフレ圧力の緩和に貢献します。また、企業の経営が安定し、新たな投資が行われれば、雇用の維持・創出にも繋がります。エネルギー価格の高騰が製造コストを圧迫し、最終的に製品価格への転嫁を通じて家計に影響を及ぼしている日本の状況を鑑みても、エネルギーコスト対策が企業と地域社会の双方にとって重要な課題であることは明らかです。
日本の製造業への示唆
今回の米ミズーリ州の動きは、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. エネルギーコストと国際競争力の直結
言うまでもなく、電気、ガスなどのエネルギーコストは、工場の操業コストを左右し、ひいては国際的な価格競争力に直接影響します。特にエネルギー多消費型の産業にとっては死活問題です。今回の事例は、海外の競合が国や州レベルの支援を受けてコスト削減に取り組んでいる現実を改めて認識させます。
2. 政策動向の注視と活用
国や自治体が打ち出す税制優遇や補助金といった政策は、企業の事業環境に大きな影響を及ぼします。国内外の政策動向を常に注視し、自社の設備投資や事業展開に活用できる制度は積極的に情報収集し、活用を検討する姿勢が不可欠です。
3. サプライチェーン再編下における立地戦略
グローバルでサプライチェーンの再編が進む中、各国・各地域は製造拠点を誘致するために様々なインセンティブを提示しています。今後の生産拠点の新設や移転、再編を検討する際には、こうした税制面を含めた公的支援を重要な比較検討項目の一つとして捉える必要があります。
4. 自社のコスト構造の再点検
海外のこうした動きを一つのきっかけとして、自社のコスト構造、特に固定費となりがちな光熱水費の内訳を改めて精査してみることも有益でしょう。省エネルギー設備への投資、再生可能エネルギーの活用、電力調達先の見直しなど、コスト削減と環境対応を両立させる取り組みを加速させる良い機会と捉えることができます。


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