あるニッチなスポーツ用品市場で行われた、メーカーへのファンの感情を測るという興味深い調査が報告されました。これは単なる人気投票ではなく、顧客がブランドに対して抱く「熱量」や「愛着」を可視化しようとする試みであり、日本の製造業が顧客との関係を再考する上で示唆に富むものです。
顧客の「好き嫌い」を超えた指標
今回ご紹介するのは、ディスクゴルフというスポーツ用品市場において、各メーカーがファンからどのように思われているかを調査した「ファンダム・サーベイ」です。この調査の興味深い点は、単なる顧客満足度や市場シェアではなく、「ファンダム(Fandom)」という、より情緒的なつながりに焦点を当てていることです。これは、顧客が製品やブランドに対して抱く愛着や熱意、いわば「ファン度」を測ろうとする試みと言えるでしょう。
従来の顧客満足度調査は、製品の機能、品質、価格、納期といった合理的な評価軸が中心になりがちです。しかし、「ファンダム」は、ブランドの持つ世界観やストーリーへの共感、コミュニティへの帰属意識といった、数値化しにくい感情的な価値を含んでいます。品質や性能で差別化を図ることが年々難しくなる現代において、こうした情緒的なつながりが、顧客に選ばれ続けるための重要な要素になりつつあります。
なぜ「ファンダム」が重要なのか?
熱心なファンは、単に製品を繰り返し購入してくれる優良顧客であるだけではありません。彼らは製品の良き理解者であり、その価値を周囲に自発的に広めてくれる「宣伝大使」のような存在になり得ます。また、時には厳しいながらも的確なフィードバックをくれる、製品開発における貴重なパートナーともなり得ます。
これは、部品や素材、工作機械などを扱うBtoB(企業間取引)の世界でも無関係ではありません。特定のメーカーの部品を信頼し、積極的に採用を働きかけてくれる設計者や、ある工作機械の操作性に惚れ込み、その良さを同業者に語る現場の技術者も、一種の「ファン」と捉えることができます。こうしたファンとの強固な関係は、価格競争に陥らないための強力な防波堤となるでしょう。
日本の製造業における顧客との関係構築
日本の製造業は、長年にわたり高い品質と技術力で顧客からの「信頼」を勝ち得てきました。これは世界に誇るべき、我々の大きな強みです。しかし、その信頼関係は、主に「機能的な信頼」ではなかったでしょうか。つまり、「あの会社の製品なら間違いない」という品質や性能への信頼です。
今後はそれに加え、自社のものづくりに対する姿勢や哲学、製品開発の背景にあるストーリーを顧客に伝え、共感を育むという視点がより重要になります。例えば、工場見学の際に、単に生産ラインの効率性を見せるだけでなく、そこで働く従業員の技術へのこだわりや製品への想いを語る。あるいは、技術資料やウェブサイトで、開発の過程で乗り越えた困難や、その技術が社会でどのように役立っているかを紹介する。こうした地道な活動が、顧客の「機能的な信頼」を、より強固な「情緒的な愛着」へと深化させていくのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回の調査はニッチな市場のものではありますが、私たち日本の製造業にとっても多くの学びを与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 顧客評価の多角化
品質・納期・コスト(QCD)といった従来の評価指標に加え、顧客が自社や製品に対してどのような感情を抱いているか(ブランドへの愛着、信頼、共感など)を把握する視点を持ちたいところです。営業担当者からのヒアリングや顧客アンケートの設問を少し工夫するだけでも、新たな発見があるかもしれません。
2. 「物語」の発信力強化
自社の持つ独自の技術や製品、そしてそれを支える人材には、必ず語るべき物語があります。その開発背景や作り手の想いを、ウェブサイトやカタログ、展示会などを通じて積極的に発信することが、顧客の共感を呼び、見えざる資産であるブランド価値を高めます。
3. コミュニティの育成と傾聴
自社製品を熱心に支持してくれる顧客(ファン)との接点を大切にし、彼らの声に真摯に耳を傾けることが重要です。ユーザー会や技術セミナー、あるいはSNSなどを活用して顧客同士が交流できる場を提供することは、ロイヤルティ向上だけでなく、製品改善に繋がる貴重な情報を得る機会にもなります。これはBtoCに限らず、BtoBにおいても有効なアプローチです。


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