半導体製造に学ぶ「全社的歩留まり改善」:AIと人の協調が部門の壁を越える

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半導体製造の高度化に伴い、歩留まり向上は単一部門の努力では限界に達しつつあります。本記事では、AIを活用して全部門が連携する「チームスポーツ」として品質改善に取り組む新たな潮流と、それが日本の製造業全体にもたらす示唆について解説します。

複雑化する製造プロセスと歩留まりの課題

半導体業界では、回路線幅の微細化が極限まで進み、製造プロセスは何百もの工程からなる非常に複雑なものとなっています。こうした中、最終的な製品の良品率、すなわち「歩留まり」を高いレベルで維持・向上させることが、収益性を左右する極めて重要な経営課題となっています。わずかなプロセスの変動が、後工程や最終的な製品特性に予期せぬ影響を及ぼし、歩留まり低下の直接的な原因となることも少なくありません。

この課題は、半導体業界に限った話ではありません。自動車、電子部品、素材産業など、日本の多くの製造業においても、製品の高機能化や顧客要求の多様化に伴い、製造プロセスは複雑化の一途をたどっています。設計、部品調達、加工、組立、検査といった各部門が、それぞれの担当範囲で品質を作り込む従来のやり方だけでは、部門間の相互作用に起因する複雑な品質問題の根本原因にたどり着くことが難しくなっているのが実情です。

「歩留まり改善はチームスポーツである」という考え方

このような背景から、米国の半導体関連企業であるPDF Solutionsは「チップ製造はチームスポーツであり、今や全員が歩留まりに責任を持つ」という考え方を提唱しています。これは、歩留まりの改善を特定の工程や品質保証部門だけの仕事と捉えるのではなく、設計、プロセス技術、装置管理、テスト、データ解析といった、製品ライフサイクルに関わる全部門が一体となって取り組むべき共通の目標である、という思想です。

この「チームスポーツ」を実現する鍵となるのが、部門間に散在するデータの統合と活用です。例えば、設計段階のシミュレーションデータ、各工程でのプロセスパラメータ、装置の稼働ログ、ウェハレベルの電気的特性データ、そして最終製品のテスト結果といった膨大な情報を一元的に集約し、AI(人工知能)を用いて解析します。これにより、これまで見過ごされてきた工程間の相関関係や、歩留まりに影響を及ぼす隠れた要因を特定できる可能性が高まります。

AIは強力な支援ツール、主役はあくまで人間

ここで重要なのは、AIがすべての答えを出すわけではない、という点です。AIは、人間では処理しきれない膨大なデータの中から、統計的に有意なパターンや異常の兆候を検知し、「この工程のこのパラメータの変動が、最終テストのこの不良モードと相関が高い」といった仮説を提示する役割を担います。これは、問題解決のプロセスを大幅に加速させる強力な支援ツールと言えるでしょう。

しかし、その仮説が物理的に、あるいは技術的に何を意味するのかを解釈し、真因を特定して具体的な対策を立案・実行するのは、各分野の知見を持った技術者、つまり人間の役割です。AIによるデータ駆動型のアプローチと、現場の経験や専門知識に基づく人間の判断(Human Governance)を組み合わせることで、初めて的確で効果的な改善活動が可能になります。AIが出した結果を鵜呑みにするのではなく、それをたたき台として専門家たちが議論を深める、という協調関係が不可欠です。

サイロ化した組織から、データで繋がる協調体制へ

このアプローチを実践する上での最大の障壁は、技術そのものよりも、むしろ組織のあり方にあるかもしれません。多くの工場では、設計、製造、品質保証といった部門が縦割り構造(サイロ化)になっており、それぞれが独自のKPIやシステムで動いています。その結果、データが部門内に囲い込まれ、全社的な視点での共有や活用が進まないケースが少なくありません。

「チームスポーツ」として歩留まり改善に取り組むためには、こうした組織の壁を越え、データを共通言語として協調できる体制と文化を構築することが求められます。それは、単に新しいITシステムを導入するだけでなく、各部門が互いの業務とデータに関心を持ち、共通の目標達成に向けてオープンに議論する風土を醸成していく、地道な取り組みが必要となるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の半導体業界における提言は、日本の製造業全体にとっても重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。

1. 全社品質管理のデジタル化:
TQC(総合的品質管理)やTPM(全員参加の生産保全)など、部門を越えて全社で品質や生産性向上に取り組む活動は、もともと日本の製造業が強みとしてきた領域です。今回の考え方は、この日本の伝統的な強みを、データとAIという現代的なツールを用いて、より高度なレベルで実践するアプローチと捉えることができます。これまで熟練者の経験と勘に頼ってきた部分をデータで裏付け、組織知として継承していくことにも繋がります。

2. 「部門の壁」を越えるデータ活用:
多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められていますが、その目的はツールの導入自体ではありません。製造現場のデータだけでなく、上流の設計データや、下流の市場における品質情報までを繋ぎ、製品ライフサイクル全体で品質を改善するという視点を持つことが重要です。部門最適から全体最適へと発想を転換し、その手段としてデータ活用を位置づけるべきでしょう。

3. 人材育成の新たな方向性:
今後、製造業の技術者には、自部門の深い専門性に加え、データを読み解き、他部門の専門家と建設的に議論できる能力がより一層求められます。データサイエンティストのような専門家だけでなく、現場のリーダーや技術者自身が基本的なデータリテラシーを身につけ、部門を越境して課題解決を主導できる人材の育成が、企業の競争力を左右する重要な要素となります。

【実務へのヒント】
全社規模での壮大な改革を最初から目指すのではなく、まずは特定の製品ラインや重要工程を対象に、設計・製造・検査のデータを統合分析するパイロットプロジェクトから始めることが現実的です。そこで「データを使えば、これまで分からなかった原因が見える」という小さな成功体験を積み重ね、その効果を社内に示しながら、徐々に対象範囲を広げていくアプローチが有効と考えられます。

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