グローバル生産における拠点間連携の重要性 – 異業種の事例から学ぶ組織能力

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グローバルに事業を展開する企業にとって、地理的に離れた拠点間の連携は重要な経営課題です。本稿では、映像制作という異業種の事例を参考に、日本の製造業がグローバルなプロジェクトを成功に導くための組織能力について考察します。

異業種に見るグローバル・チームワークのかたち

近年、多様な業界でグローバルな協業体制が一般化しています。例えば、クリエイティブな映像制作を手がけるTwentyfourSeven社では、一つのキャンペーンを成功させるために、チリやスペインといった異なる国のチームが連携しています。そこでは、プロダクションマネジメント、コーディネーション、撮影技術など、各分野の専門家が国境を越えて協力し、一つの作品を創り上げています。

これは、一見すると製造業とは異なる世界の事例に見えるかもしれません。しかし、新製品の立ち上げや複雑なサプライチェーンの構築といったプロジェクトにおいて、複数の海外拠点が連携して業務を遂行する現代の製造業の姿と、本質的には同じ構造を持っていると言えるでしょう。

製造業におけるグローバル連携の課題

日本の製造業においても、設計は日本、部品調達は東南アジア、組立は欧米といったように、機能が地理的に分散しているケースは珍しくありません。このような体制は、コスト最適化や市場への迅速な対応を可能にする一方で、拠点間の連携が円滑に進まなければ、深刻な問題を引き起こします。

具体的には、設計変更の意図が製造現場に正確に伝わらないことによる品質問題、拠点間の情報伝達の遅れによる納期遅延、あるいは各拠点の役割分担が曖昧なことによる責任の所在の不明確化などが挙げられます。言語や文化、商習慣の違い、そして物理的な距離と時差が、これらの課題をさらに複雑にしています。

成功の鍵は「役割の明確化」と「横断的な調整機能」

先の映像制作会社の事例で注目すべきは、各チームの「役割」が明確である点です。プロダクションマネジメント(生産管理)、コーディネーション(調整)、カメラ(専門技術)といったように、誰が何に責任を持つかがはっきりしています。これを製造業に置き換えれば、マザー工場は基幹技術開発と試作、海外の量産工場は安定した品質での大量生産、といったように各拠点のミッションを明確に定義することの重要性が見えてきます。

さらに重要なのが、「コーディネーション」、すなわち全体を俯瞰し、拠点間を繋ぐ調整機能です。各拠点が持つ情報を集約し、課題を整理し、解決策を導き出すハブとなる部門や人材の存在が、プロジェクト全体の成否を分けます。単なる連絡役ではなく、各拠点の事情を理解した上で、全体の最適解を模索する高度な調整能力が求められるのです。

日本の製造業への示唆

今回の異業種の事例から、日本の製造業がグローバルな事業運営をさらに強化していくために、以下の点が重要であると考えられます。

  • 拠点ごとの役割と責任の再定義:各工場や開発拠点が持つべき機能と責任範囲を、事業戦略に照らして改めて明確にすることが不可欠です。これにより、各拠点は自らのミッションに集中でき、効率的な連携の土台が築かれます。
  • グローバルな調整役(コーディネーター)の育成:複数の拠点や文化を理解し、プロジェクト全体を俯瞰して調整できる人材を、本社主導で計画的に育成することが急務です。彼らが拠点間の「潤滑油」となり、円滑なコミュニケーションを促進します。
  • 情報共有基盤の標準化:設計データ、生産計画、品質情報などを、各拠点がリアルタイムで、かつ同じフォーマットで共有できるITインフラの整備は、物理的な距離を埋めるための重要な投資です。
  • 成功事例の水平展開:ある拠点で得られた改善やノウハウを、他の拠点へスムーズに展開するための仕組み作りも重要です。これにより、組織全体の能力を底上げすることができます。

個々の拠点の能力を高めるだけでなく、それらをいかに有機的に結びつけ、組織全体としてのアウトプットを最大化するか。この視点こそが、グローバル競争を勝ち抜く上で、ますます重要になっていくでしょう。

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