中国の製造業の景況感を示す主要な指標であるPMI(購買担当者景気指数)が発表されました。大手企業対象の指数、中小企業対象の指数ともに好不況の分かれ目となる50を下回っており、中国経済の減速基調が続いていることを示唆しています。本稿では、このデータが日本の製造業に与える影響と、実務上の留意点について解説します。
中国の11月製造業PMIの概要
先日発表された中国の2024年11月の製造業PMIは、国家統計局(NBS)発表の数値が49.2、財新(Caixin)発表の数値が49.9となりました。PMIは50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気縮小を示す指標であり、いずれの数値も景気縮小局面にあることを示しています。また、サービス業などを含む非製造業PMIも49.5と、同様に50を下回る結果となりました。
ご存知の通り、NBSのPMIは主に大手・国有企業を対象としており、CaixinのPMIは中小企業や輸出関連企業を対象としています。両方の指標がそろって50を下回っていることは、中国国内の景況感が、企業の規模や業態を問わず、広範囲にわたって慎重な見方になっていることを物語っています。
中国経済の現状と日本の製造業への影響
この背景には、不動産市場の長期的な不振や、それに伴う個人消費の伸び悩み、また一部の分野における輸出の停滞などが複合的に影響していると考えられます。中国経済の減速は、もはや対岸の火事として済ませられる話ではありません。日本の製造業にとって、中国は「世界の工場」としてサプライチェーンの要であると同時に、「世界の市場」として重要な販売先でもあるからです。
まず、サプライチェーンの観点からは、中国国内のサプライヤーの生産活動が停滞するリスクが考えられます。部品や原材料の納期遅延、あるいはサプライヤーの経営状況悪化といった事態も想定しておく必要があります。特に中国への依存度が高い部材については、調達状況を改めて確認することが肝要です。
次に、需要の観点からは、中国市場向けの製品販売への影響が懸念されます。特に、現地の設備投資動向に左右される工作機械や生産財、あるいは自動車関連部品や電子部品などを供給している企業にとっては、販売計画の見直しが必要になる可能性があります。中国の最終製品メーカーの生産が鈍れば、当然ながら我々が供給する部品や素材への需要も減少します。
日本の製造業への示唆
今回のPMIの数値は、中国経済の先行き不透明感を改めて示すものです。これを踏まえ、日本の製造業に携わる我々としては、以下の点を再確認し、備えを固めておくことが重要と考えます。
1. サプライチェーンの再点検と強靭化
特定の国やサプライヤーへの依存度を改めて評価し、リスク分散の観点から調達先の複線化や代替材の検討を進めることが求められます。また、不測の事態に備え、重要部材の在庫レベルの見直しや、国内生産への回帰(リショアリング)の可能性も視野に入れた中長期的な戦略が必要となるでしょう。
2. 需要予測の精緻化と市場の多様化
中国市場の動向をこれまで以上に注意深く監視し、販売計画や生産計画に柔軟性を持たせることが不可欠です。同時に、ASEANやインド、北米など、中国以外の成長市場への展開を加速させ、事業ポートフォリオのバランスを最適化していく視点が、今後の経営の安定に繋がります。
3. 足元の競争力強化
外部環境が不透明な時こそ、自社の生産性向上やコスト管理といった内部固めが重要になります。現場レベルでの地道な改善活動を継続し、品質、コスト、納期の競争力を高めておくことが、いかなる経済状況にも耐えうる強固な事業基盤を築く上で最も確実な一手と言えるでしょう。


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