中国製造業、世界第2階層へ ― ドイツ・日本と並ぶとの評価。その背景と我々が考えるべきこと

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中国の公的研究機関である中国工程院は、最新の報告書で中国の製造業をドイツや日本と同等の「世界第2階層」に位置づけました。この評価は、中国製造業の著しい成長を裏付けるものですが、その指標の内訳を詳しく見ることで、日本の製造業が直面する競争環境の真の姿と、今後の進むべき方向性が見えてきます。

中国工程院による製造強国の4階層評価

中国工程院が発表した「2024年中国製造強国発展指数報告書」は、世界の主要な製造業国を4つの階層に分類して評価しています。この報告書によれば、2023年時点での最新の分類は以下のようになっています。

  • 第1階層(主導的地位): 米国
  • 第2階層(ハイエンド領域の中核): ドイツ、日本、中国
  • 第3階層(中・ハイエンド領域で強み): 韓国、フランス、英国
  • 第4階層(中・ローエンド領域で強み): インド、ブラジル、メキシコなど

注目すべきは、中国が初めてドイツや日本と並ぶ第2階層に入ったと評価された点です。2012年から2023年にかけて、中国の製造強国指数は着実に上昇しており、今回の階層引き上げは、その継続的な成長の結果と位置づけられています。

指数の内訳から見える中国製造業の実像

「日本と同等」という評価を、私たちはどのように受け止めるべきでしょうか。そのためには、評価の根拠となった指標の内訳を冷静に分析する必要があります。この指数は主に「規模」「品質・効率」「構造最適化」「持続的発展」という4つの大項目から構成されています。

報告書によれば、中国の最大の強みは、他を圧倒する「規模」にあります。世界最大の生産能力と市場を持つ中国が、この項目で高い評価を得るのは当然と言えるでしょう。一方で、「品質・効率」や、産業の土台となる「基礎力」といった側面では、依然としてドイツや日本に及ばない部分があると自己評価しています。

日本の製造業の現場感覚からすれば、確かに中国製品の品質は近年著しく向上しています。しかし、基幹となる工作機械や精密測定器、高機能材料、あるいは複雑な摺り合わせを要する生産技術といった領域では、依然として日本やドイツに一日の長があると感じる場面は少なくありません。今回の報告書は、こうした現場の実感を裏付けるものとも言えます。重要なのは、その差が急速に縮まりつつあるという事実を直視することです。

中国が目指す「ハイエンド化、スマート化、グリーン化」

この報告書は、中国製造業の今後の課題として、産業基盤の強化とともに「ハイエンド化、スマート化、グリーン化」の推進を挙げています。これは単なるスローガンではなく、国家戦略として強力に推し進められている目標です。

電気自動車(EV)や太陽光パネル、蓄電池といった分野では、中国はすでに世界市場をリードする存在となっています。これらの分野では、圧倒的な生産規模とスピード感のある投資判断により、技術革新とコスト競争力を両立させています。また、工場のスマート化(デジタル化、自動化)や、サプライチェーン全体でのグリーン化(脱炭素化)への取り組みも国策として進められており、一部の先進的な工場では、その生産性が日本の工場を凌駕するケースも出始めています。

これらの動きは、日本の製造業にとって、競争環境が大きく変化していることを示唆しています。特にスマート化やグリーン化は、我々にとっても喫緊の経営課題であり、中国の動向は、単なる競合相手としてだけでなく、ある側面ではベンチマークとして学ぶべき点も多いと言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の報告書を受け、日本の製造業に携わる我々は、以下の点を改めて認識し、自社の戦略を見直す必要があると考えます。

1. 客観的な立ち位置の再認識
「ものづくり大国」という過去の栄光に安住するのではなく、客観的なデータに基づき、自社の立ち位置を冷静に見つめ直すことが不可欠です。規模では中国に大きく水をあけられ、特定の先進分野では先行されているという事実を認め、謙虚に学ぶ姿勢が求められます。その上で、我々が競争優位を築ける領域はどこなのかを再定義する必要があります。

2. 「強み」の深化と進化
日本の製造業がこれまで培ってきた「強み」、すなわち高品質を支える精密加工技術や素材技術といった「基礎力」、そして現場の改善活動に代表される「品質・効率」の追求は、今後も競争力の源泉であり続けます。ただし、これらの強みを守るだけでなく、デジタル技術(AI、IoT)を積極的に導入し、より高い次元へと「進化」させていく努力が不可欠です。熟練技術者の暗黙知を形式知化し、データに基づいて品質や生産性を改善していく取り組みが、その一例です。

3. 新たな競争軸への迅速な対応
スマート化(工場のDX)やグリーン化(脱炭素、サーキュラーエコノミー)は、もはや避けては通れないグローバルな競争軸です。特にサプライチェーン全体でのカーボンフットプリント削減は、欧州の顧客を中心に取引条件となりつつあります。これらの課題への対応の遅れは、将来の事業機会を失うことに直結します。経営層は、これらの分野への投資を最優先課題と位置づけ、全社的な取り組みを加速させるべきです。

中国製造業の台頭は、脅威であると同時に、我々が自らの足元を見つめ直し、変革を促すための鏡でもあります。現状を冷静に分析し、自社の強みを再定義し、未来に向けた次の一手を着実に打っていくこと。今まさに、日本の製造業の真価が問われています。

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