海外求人に見る「FCT(機能検査)」の重要性 — 品質を支えるテスト設計技術者という専門職

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マレーシアの電気・半導体分野における「FCTテスト設計エンジニア」の求人情報から、現代の製造業、特に海外生産拠点における品質保証の要諦が見えてきます。本稿では、製品の機能を最終確認するFCT(機能検査)の重要性と、それを支える専門人材の役割について、日本の製造現場の視点から解説します。

海外の求人情報が示す「テストエンジニア」の専門性

先日、マレーシアの人材紹介会社のウェブサイトに掲載された「FCT Test Design Engineer Sr.(シニア・機能検査テスト設計技術者)」という求人情報が目に留まりました。これは、電気・半導体関連の生産管理職としての募集です。日本の製造業に携わる我々にとって、この「FCT」という言葉は馴染み深いものでしょう。FCTとはFunction Circuit Test、すなわち「機能検査」または「ファンクションテスト」を指し、電子基板や製品が設計通りの機能・性能を正しく発揮するかを確認する、製造工程における極めて重要な検査項目です。

注目すべきは、単なる「検査員」ではなく、「テスト設計技術者」という専門職として募集されている点です。これは、検査という業務が、単に良否を判定する作業にとどまらず、いかにして効率的かつ網羅的に製品の品質を保証するかを計画・設計する、高度な技術領域であることを示唆しています。テスト仕様の策定、検査プログラムの開発、測定治具の設計、そして得られたデータの分析と前工程へのフィードバックまで、その職務範囲は多岐にわたります。

なぜテストの「設計」が不可欠なのか

製造現場において、検査工程は品質の最後の砦です。しかし、その目的は単に不良品を後工程へ流出させないことだけではありません。より本質的な目的は、検査結果を製造工程(特に前工程)にフィードバックし、不良の発生源を特定・改善することで、プロセス全体の品質を安定させることにあります。

そのためには、場当たり的な検査ではなく、戦略的な「テスト設計」が不可欠となります。例えば、どのような故障モードを検出すべきか、そのためにどの項目を測定すべきか、許容される公差はどの程度か、といったことを製品仕様や過去の不具合事例に基づいて定義しなくてはなりません。また、生産のタクトタイムを考慮し、限られた時間内で最大のテストカバレッジ(検査網羅率)を達成するための効率的な手順を確立することも、テスト設計技術者の重要な役割です。ICT(インサーキットテスト)で検出できる項目とFCTでなければ確認できない項目を切り分け、検査工程全体を最適化する視点も求められます。

海外生産拠点における品質保証の要

この求人がマレーシアで出されているという点も、示唆に富んでいます。日本のマザー工場で開発・設計された製品を海外の拠点で量産する際、品質の作り込みは大きな課題となります。部品の供給元や作業者のスキルレベル、温湿度といった環境条件も日本とは異なります。そうした中で、設計通りの品質を安定的に確保するためには、現地に根差した強力な品質保証体制が不可欠です。その中核を担うのが、FCTに代表される検査工程です。

日本から送付された検査仕様書をそのまま適用するだけでは、現地特有の問題を見逃しかねません。現地の状況を深く理解し、製造プロセスを分析した上で、最適なテスト仕様や治具を設計・改善できるエンジニアの存在が、海外拠点の品質と生産性を大きく左右します。この求人は、グローバルな生産体制において、テストエンジニアリングという専門性が経営上の重要課題として認識されていることの表れと言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の海外求人情報から、我々日本の製造業が改めて認識すべき点を以下に整理します。

1. テスト工程の専門性の再評価
検査を単なるコスト部門や単純作業と捉えるのではなく、製品の価値を保証し、プロセス改善を促進する高度な技術開発部門として位置づけることが重要です。特に、ソフトウェアが組み込まれた製品が増える中、テストプログラムの設計・開発能力は企業の競争力に直結します。

2. テストエンジニアの育成とキャリアパスの確立
優れたテストエンジニアは、設計開発、生産技術、品質保証のすべてに精通している必要があります。部門間のローテーションを経験させたり、専門職としてのキャリアパスを明確に示したりすることで、体系的な人材育成に取り組むべきです。彼らの知見は、開発の初期段階(デザインレビューなど)で活かすことで、手戻りを減らし、開発全体の効率化にも貢献します。

3. 海外拠点における品質保証体制の鍵は「現地人材」
最新の自動検査機を導入するだけでは、品質保証体制は盤石になりません。その設備を真に理解し、現地の状況に合わせて最適化・改善できる専門人材がいて初めて、設備は真価を発揮します。海外拠点におけるテストエンジニアの採用と育成は、グローバルな品質基準を維持するための戦略的投資と捉えるべきでしょう。

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