ベトナム・カントーで、ハーブを飼料に用いた高品質な鶏卵生産が注目されています。一見、製造業とは直接関係のないこの取り組みから、日本のものづくりが今後取り組むべき付加価値創出の要点を探ります。
ベトナムで進む「高付加価値型」の一次産業
ベトナム南部の都市カントーで、特殊な鶏の養鶏が注目を集めているようです。元記事によれば、青い殻の卵を産むことで知られる「アラウカナ種」の鶏に、ハーブを配合した特別な飼料を与え、高品質な鶏卵を生産しているとのことです。これは、単に食料を大量生産するのではなく、原材料や飼育方法に工夫を凝らすことで、製品そのものの価値を高めようとする戦略的な取り組みと言えるでしょう。このような動きは、製造業における生産戦略を考える上でも示唆に富んでいます。
原材料とプロセスが製品の価値を決める
この養鶏事例を、我々製造業の視点で分解してみましょう。ポイントは「アラウカナ種」という特殊な品種を選び、「ハーブを配合した飼料」という独自のプロセスを用いている点です。これは、製造業における「製品コンセプトの明確化」と「独自性のある材料・製法の採用」に他なりません。
例えば、汎用的な鋼材ではなく、特定の用途に特化した自社開発の合金を用いる工具メーカーや、標準的な化学繊維の代わりに、植物由来の特殊な原料で機能性素材を開発する繊維メーカーなどがこれにあたります。最終製品の品質や性能は、どのような原材料を使い、いかなるプロセスを経て作られるかによって大きく左右されます。このベトナムの事例は、ものづくりの原点に立ち返り、インプットとなる原材料や製造プロセスそのものを見直すことが、いかに重要であるかを再認識させてくれます。
生産の背景にある「物語」の重要性
元記事では「代替生産(Alternative production)」や「管理と福祉(Management & Welfare)」といったキーワードが挙げられています。これは、生産効率だけでなく、環境への配慮やアニマルウェルフェア(動物福祉)といった、生産の背景にある倫理的な側面も重視されていることを示唆しています。消費者は、単に製品の機能や価格だけでなく、その製品が「どのように作られたか」という物語にも価値を見出すようになっています。
これは日本の製造業においても同様です。環境負荷の少ない製造プロセスを採用していること、地域社会や従業員のウェルビーイングに配慮した工場運営を行っていることなどは、企業の信頼性を高め、製品ブランドの価値向上に直結します。特にBtoBの取引においても、サプライヤーのESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを評価する動きは年々強まっており、もはや無視できない経営課題となっています。
アジア生産拠点の役割の変化
この取り組みがベトナムで行われている点も興味深いところです。かつて、アジアの生産拠点といえば、主にコスト削減を目的とした場所と見なされがちでした。しかし現在では、現地の独自の資源(今回の例ではハーブなど)や新しい発想を活かした、高付加価値製品の生産拠点としての可能性が広がっています。
日本の製造業が海外拠点を運営する際も、単なるコストセンターとして捉えるだけでなく、現地の市場特性や文化、資源を活かした新たな価値創造の拠点、いわば「バリューセンター」として位置づけ直す視点が必要かもしれません。現地主導での製品開発やプロセス改善を促すことで、グループ全体の競争力を高めることができるのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回のベトナムの養鶏事例から、日本の製造業が実務に活かせる示唆を以下に整理します。
1. 原材料と製法の再検証による付加価値創出
当たり前になっている材料や製造プロセスを一度見直し、独自性や優位性を生み出せないか検討することが重要です。素材レベルでの差別化は、模倣が困難な競争力の源泉となります。
2. ニッチ市場への特化と背景のストーリー化
大量生産品との価格競争を避けるため、特定の顧客層が求める価値に特化した製品開発が有効です。その際、製品が生まれるまでの開発経緯や、製造プロセスのこだわりを「物語」として伝えることで、顧客の共感を呼び、ブランドへのロイヤリティを高めることができます。
3. サステナビリティの競争力への転換
環境や社会への配慮は、もはや単なるコストや義務ではありません。自社の取り組みを積極的に情報開示し、企業の信頼性やブランドイメージ向上につなげることで、新たな競争力となり得ます。
4. 海外拠点の役割の再定義
海外の生産拠点を、低コスト生産のためだけの場所と捉えるのではなく、現地の知見や資源を活かして新しい価値を生み出す拠点として活用する戦略が求められます。現地の裁量権を高め、イノベーションを促す組織づくりが鍵となります。


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