S&Pグローバルが発表した2025年12月のロシア製造業PMI(購買担当者景気指数)は48.1となり、好不況の分かれ目である50を2ヶ月連続で下回りました。本稿では、この指標が示すロシア製造業の現状と、日本のものづくり現場への影響について考察します。
ロシア製造業PMI、2ヶ月連続で50を下回る
S&Pグローバルによると、2025年12月のロシアにおける製造業PMI(購買担当者景気指数)は48.1となり、前月の48.3からさらに低下しました。これにより、ロシアの製造業の景況感は2ヶ月連続で縮小局面にあることが示されました。
PMI(購買担当者景気指数)とは何か
まず、PMIという指標について簡単にご説明します。PMIは、企業の購買担当者へのアンケート調査をもとに算出される経済指標で、製造業の健全性を示す「先行指標」として世界中で重視されています。具体的には、新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫といった項目について、前月と比較して「改善した」「変わらない」「悪化した」という回答を集計し、指数化したものです。
この指数の重要な点は、50を景況感の拡大・縮小の分岐点としていることです。指数が50を上回れば景気拡大、50を下回れば景気縮小を示唆します。現場の肌感覚に近いリアルタイム性の高いデータとして、多くの経営者や工場管理者が事業環境を判断する材料の一つとして活用しています。
数値が示すロシア製造業の現状
今回の48.1という数値は、ロシアの製造業が明確な縮小傾向にあることを示しています。この背景には、国際的な経済制裁による影響が続いていることが考えられます。西側諸国からの先端的な工作機械や電子部品、ソフトウェアなどの輸入が制限されることで、国内の生産活動に制約が生じている可能性があります。
また、PMIを構成する項目で考えると、特に「新規受注」や「生産」の項目が悪化していることが推測されます。国外からの受注が減少する一方で、国内需要も先行きの不透明感から伸び悩んでいる状況がうかがえます。これは、工場の稼働率低下や雇用の調整圧力につながる可能性を示唆しています。
日本の製造業の視点から見れば、これは地政学的な要因がいかにサプライチェーンや生産活動に直接的な影響を及ぼすかを示す好例と言えるでしょう。かつてはロシア国内の工場へ部品を供給したり、ロシアから原材料を調達したりしていた企業も多かったはずですが、現在はそうした取引が困難になっています。こうした状況が、同国の製造業全体の体力を少しずつ削いでいるのかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回のロシアのPMI動向から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. 景気先行指標としてのPMIの定点観測
日本国内や主要な取引国のPMIを定期的に確認することは、自社の事業環境の先行きを予測する上で極めて有効です。特に、新規受注や入荷遅延(サプライヤーの納期)といった項目は、自社の生産計画や在庫管理に直結します。マクロな経済指標を、自社の現場運営に落とし込んで考える習慣が重要です。
2. サプライチェーンにおける地政学リスクの再評価
ロシアの事例は、特定の国や地域に依存するサプライチェーンの脆弱性を改めて浮き彫りにしました。直接的な取引先だけでなく、二次、三次のサプライヤーがどこに立地しているかを含め、自社の供給網全体のリスクを再評価することが求められます。調達先の多様化や代替生産拠点の確保など、BCP(事業継続計画)の観点からの見直しは、平時だからこそ進めておくべき課題です。
3. グローバル市場の連関性への注意
直接ロシアとの取引がない企業であっても、その影響は無関係ではありません。ロシアはエネルギーや特定鉱物資源の主要供給国であり、同国の経済動向は国際的な資源価格や為替市場に影響を与える可能性があります。原材料費やエネルギーコストの変動要因として、こうした世界各国の経済動向を広く監視する視点が、今後の工場運営や経営判断においてますます重要になるでしょう。


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