米防衛サプライチェーンにおける積層造形(AM)活用の新潮流:オーバーン大学と企業の連携から学ぶ

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米国のオーバーン大学積層造形技術センター(NCAME)が、大手造船企業やAM専門企業との連携を通じて、防衛分野のサプライチェーンにおける積層造形(AM)技術の応用研究を加速させています。本稿では、その具体的な取り組みを解説し、日本の製造業が学ぶべき実務的な視点を探ります。

産学連携で進む、防衛サプライチェーンの強靭化

米国のオーバーン大学に設置された積層造形技術センター(NCAME)は、米陸軍やNASAとの協力関係で知られるAM技術研究の中核拠点です。そのNCAMEが今、防衛産業のサプライチェーンが抱える課題解決に向け、民間企業との連携を強化しています。防衛産業では、旧式装備品の補修部品の入手難や、有事における迅速な部品供給能力が長年の課題となっており、その解決策としてAM技術、いわゆる3Dプリンティング技術への期待が高まっています。

造船大手Austal USAとの協業:現場改善ツールとしてのポリマーAM

NCAMEは、米海軍向けのアルミ製船舶を建造する大手造船企業Austal USAとの協業を開始しました。この取り組みの興味深い点は、最終製品の製造ではなく、生産現場で使われる治具や工具、試作品の製作にAM技術を活用していることです。具体的には、溶融析出モデリング(FDM)方式などのポリマー(樹脂)系AM技術が用いられています。

例えば、造船工程で一時的に使用する電気コネクタの保護カバーをAMで製作したところ、従来の外注に比べてコストを約50%、リードタイムを70%も削減できたと報告されています。このように、比較的手軽に導入できるポリマーAMを現場の改善ツールとして活用することで、直接的なコスト削減や生産性向上に繋げるアプローチは、日本の製造現場においても大いに参考になるでしょう。金型の製作を待つことなく、必要な治具を即座に内製できるメリットは計り知れません。

AM専門企業Amaeroとの連携:金属部品の実用化と認証プロセスの確立

もう一方の連携相手は、航空宇宙・防衛分野での金属AMに実績を持つAmaero社です。こちらでは、より高度な金属AM技術、特にレーザー粉末床溶融結合法(LPBF)に焦点を当てています。その目的は、最終製品、特に補修部品や性能向上部品をAMで製造し、実用化することです。

しかし、航空機や艦船に使われる重要部品をAMで製造するには、その品質と信頼性を保証するための厳格な「認証プロセス」が不可欠です。材料の特性評価から製造プロセスの安定化、非破壊検査による品質保証まで、確立すべき課題は山積しています。この提携は、NCAMEの持つ材料科学やプロセス研究の知見と、Amaeroが持つ実用化のノウハウを組み合わせることで、この認証プロセス自体を体系化し、防衛産業における金属AM部品の採用を加速させることを目指しています。これは、技術開発だけでなく、その技術を社会実装するための「ルール作り」に踏み込んだ動きとして注目されます。

日本の製造業への示唆

今回の米国の事例は、AM技術の活用を検討する日本の製造業にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. AM活用の二段階アプローチ
まず、Austal USAの事例のように、ポリマーAMを治具・工具の内製化といった「現場改善ツール」として導入するアプローチがあります。これは比較的低リスクで始められ、コスト削減やリードタイム短縮といった具体的な効果を実感しやすい現実的な第一歩です。一方、Amaeroとの連携は、金属AMによる補修部品の製造やオンデマンド生産といった、サプライチェーン全体を変革し得る「戦略的ツール」としてのアプローチです。自社の目的や技術レベルに応じて、この二つのアプローチを使い分ける、あるいは段階的に進めていく視点が重要になります。

2. 品質保証と認証プロセスの重要性
特に最終製品へのAM適用を目指す場合、技術的な課題以上に、品質保証体制の構築が大きな壁となります。製品に求められる要求仕様を深く理解し、材料管理、プロセス管理、後処理、検査に至る一連の工程を標準化し、その信頼性を客観的に証明するプロセスを確立しなければなりません。米国の防衛産業が国を挙げてこの課題に取り組んでいるという事実は、AM部品の実用化が単なる技術の問題ではないことを示唆しています。

3. 産学連携によるエコシステム形成の価値
AM技術の導入と定着は、一社の努力だけでは困難な場合があります。今回の事例のように、大学などの研究機関が持つ基礎研究や標準化の機能と、ユーザー企業が持つ現場のニーズ、そして専門技術を持つサプライヤーが連携することで、技術開発から実用化、人材育成までを含めた「エコシステム」が形成されます。自社に必要な技術や知見を持つ外部パートナーと積極的に連携していく姿勢が、今後の競争力を左右する鍵となるでしょう。

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