世界の電力網投資の潮流から読み解く、日本の製造業が向き合うべき課題と機会

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脱炭素化と電化の波が世界的に加速する中、電力の安定供給を支える送配電網(グリッド)への投資が急増しています。特に中国と米国が巨額の投資を計画しており、この動きは日本の製造業にとっても、エネルギー戦略や事業機会の観点から無視できない重要な変化と言えるでしょう。

世界で加速する電力網への投資

昨今、世界各国で再生可能エネルギーの導入や電気自動車(EV)の普及が急速に進んでいますが、その裏側で電力インフラの脆弱性が大きな課題として浮上しています。発電所で作られた電気を工場や家庭に届ける送配電網が、この新しいエネルギー需要の構造変化に対応しきれていないのです。Visual Capitalistが報じたデータによると、この課題に対応するため、2020年から2027年にかけて世界の電力網への投資は著しく増加する見通しです。主な要因としては、再生可能エネルギーの出力変動を吸収するための系統安定化、EV充電インフラの拡充、そして既存設備の老朽化対策が挙げられます。

国別で見る投資動向:中国と米国が市場を牽引

国別の投資予測を見ると、特に中国と米国の動きが突出しています。中国は、2027年までの累計で世界の投資額の約3分の1を占めると予測されており、圧倒的な規模で送配電網の増強・近代化を進めています。これは、国内の膨大な再生可能エネルギー発電設備を効率的に活用し、広大な国土の隅々まで安定した電力を供給するための国家的な戦略の一環と考えられます。太陽光パネルや風力タービンだけでなく、それを支えるインフラ全体への投資を一体で進めている点は注目に値します。

一方、米国もインフレ抑制法(IRA)などの強力な政策的後押しを受け、投資を拡大しています。老朽化したインフラの更新と、国内でのクリーンエネルギー普及を両立させる狙いがあり、送配電網の強靭化は国家安全保障の観点からも重要視されています。欧州各国も同様に、ロシアからのエネルギー依存脱却と脱炭素化を背景に、着実な投資を進めています。

日本の製造業から見た電力インフラの重要性

こうした世界的な潮流は、我々日本の製造業に二つの側面から影響を及ぼします。一つは、事業運営の基盤となる電力の安定確保という「守り」の側面です。国内においても、電力需給の逼迫や系統の制約は、工場の安定稼働を脅かすリスク要因です。今後、国内での再エネ導入が進む中で、送配電網の増強が計画通りに進まなければ、電力コストの上昇や供給不安が現実的な経営課題となる可能性があります。

もう一つは、新たな市場の創出という「攻め」の側面です。送配電網の近代化には、高効率な変圧器、高性能な電線、系統を安定させるためのパワー半導体、そして精緻な制御を行うための計測・制御システムなど、多岐にわたる高度な部材や機器が必要となります。これらの分野は、まさに日本の製造業が技術的な強みを持つ領域であり、国内外で拡大するインフラ投資は大きな事業機会となり得ます。

日本の製造業への示唆

今回の世界の電力網投資の動向を踏まえ、日本の製造業関係者が実務レベルで検討すべき点を以下に整理します。

1. エネルギー戦略とBCPの再点検
自社の工場や事業所における電力の重要性を再評価し、エネルギー調達戦略を見直す必要があります。自家消費型の太陽光発電設備の導入や蓄電池の活用に加え、地域の電力インフラの状況を把握し、停電や電圧変動といったリスクを織り込んだ事業継続計画(BCP)の高度化が求められます。

2. 電力網関連市場での事業機会の探索
自社の技術や製品が、国内外の送配電網の高度化に貢献できる可能性を検討すべきです。特に、省エネ性能や信頼性、耐久性に優れた部材・機器は、長期的な運用が前提となるインフラ市場で高く評価されます。関連する政策や技術規格の動向を注視し、戦略的な研究開発や市場開拓を進めることが重要です。

3. グローバルなサプライチェーン・リスクの把握
海外に生産拠点を持つ企業や、海外からの部材調達に依存する企業は、その国・地域の電力インフラ事情をサプライチェーン・リスクの一つとして評価する必要があります。現地の電力安定性やコスト動向が、自社拠点やサプライヤーの操業に与える影響を定期的に分析し、対策を講じることが不可欠です。

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