海外において、企業の社会的評価の尺度が変化しつつあります。コンプライアンスや社会的責任に加え、「持続可能な生産管理」が重要な評価項目として認識され始めており、これは日本の製造業にとっても無視できない潮流です。
海外で高まる「持続可能性」への関心
モンゴルで発表された優良企業に関する報道では、優れた業績を上げた企業が表彰される中で、その評価項目として「強力なコンプライアンス」「社会的責任」と並び、「持続可能な生産管理（sustainable production management）」が挙げられました。これは、特定の国に限った話ではなく、世界的に企業の価値を測る上で、環境や社会への配慮、そして事業の継続性が重要な指標となっていることの表れと言えるでしょう。
従来、製造業における評価は、品質・コスト・納期（QCD）が中心でした。しかし近年では、投資家や顧客、さらには地域社会といったステークホルダーが、企業の持続可能性（サステナビリティ）を厳しく見ています。この動きは、サプライチェーン全体に影響を及ぼし、取引先の選定基準にもなりつつあります。
「持続可能な生産管理」とは何か
「持続可能な生産管理」と聞くと、省エネルギー活動や廃棄物削減といった環境対策をイメージする方が多いかもしれません。もちろんそれらも重要な要素ですが、本質はより広範な概念を内包しています。
具体的には、限りある資源を効率的に活用し、環境負荷を最小限に抑えながら生産活動を行うことに加え、従業員の安全で健康的な労働環境の確保、サプライチェーンの強靭化、さらには技術承継や人材育成といった、事業を長期的に継続させるためのあらゆる活動が含まれます。つまり、目先の利益や生産効率だけでなく、環境・社会・経済の3つの側面から、事業の永続性を見据えた工場運営そのものを指す言葉と捉えることができます。
日本の製造現場における視点
日本の製造業は、これまでもQCサークル活動やカイゼン活動を通じて、無駄をなくし、品質と生産性を高める努力を愚直に続けてきました。実はこれらの活動は、「持続可能な生産管理」の考え方と非常に親和性が高いものです。
例えば、歩留まりの向上は資源の有効活用に直結しますし、設備の予防保全（TPM）は設備の長寿命化と安定稼働を実現し、事業の継続性を高めます。また、5S活動による職場環境の改善は、従業員の安全確保や働きがいに繋がり、社会的側面からの持続可能性に貢献します。これまで現場で行ってきた地道な取り組みを「持続可能性」という新しい視点で捉え直し、体系化することで、その価値を社内外に明確に示すことができるのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回の海外の動向から、日本の製造業が改めて認識すべき点を以下に整理します。
1. 企業評価の多角化への対応
品質やコストだけでなく、「持続可能性」が企業の競争力やブランド価値を左右する重要な要素となっています。自社の取り組みを整理し、ESG（環境・社会・ガバナンス）の観点から外部へ適切に情報発信していくことが、今後ますます重要になるでしょう。
2. 既存の強みの再評価
日本の製造現場が長年培ってきた「カイゼン」やTQM（総合的品質管理）といった活動は、「持続可能な生産管理」を実現するための強力な基盤です。これらの活動を新しい価値基準に沿って再定義し、経営戦略と結びつけることが求められます。
3. サプライチェーン全体での視点
持続可能性への要求は、自社工場のみならず、部品や原材料を供給するサプライヤーにも向けられます。サプライチェーン全体で環境負荷の低減や人権への配慮といった課題に取り組むことが、事業リスクの低減に繋がり、結果として自社の競争力を高めることになります。
持続可能性への取り組みは、単なるコストや守りのCSR活動ではなく、事業の根幹を成す経営課題です。現場の地道な改善活動と経営の大きなビジョンを結びつけ、着実に実践していくことが、これからの製造業には不可欠と言えるでしょう。
コメント