これからの工場が目指す姿:ハードとソフトが融合した『統合生産システム』とは

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近年、スマートファクトリーという言葉が頻繁に聞かれますが、その本質は個別の自動化設備の導入に留まりません。ロボットやセンサーといった物理的な要素を、スマートな生産管理システムと連携させ、一つの統合された複合体(Integrated Complex)として機能させることが、これからの競争力の源泉となります。本稿では、この「統合生産システム」の考え方と、日本の製造業が取り組むべき課題について解説します。

スマートファクトリーの本質は「統合」にあり

海外の先進的な工場に関する報告で、「ロボティクス、自動搬送システム、デジタル検査ツールを、スマートな生産管理と組み合わせた統合コンプレックスとして機能する」という一文が注目されています。これは、これからの製造現場が目指すべき姿を的確に表現しています。重要なのは、個々の設備が優れていることだけではなく、それらが有機的に「統合」されているという点です。

日本の製造現場は、カイゼン活動などを通じて各工程を磨き上げる「部分最適」を得意としてきました。しかし、個々の工程が高度に自動化されても、工程間の情報の流れやモノの移動が滞っていては、工場全体の生産性は頭打ちになります。スマートファクトリーの本質とは、個々の自動化(FA: Factory Automation)の集合体ではなく、工場全体を一つのシステムと捉え、データで繋ぎ、全体最適化を目指す思想にあると言えるでしょう。

統合生産システムを構成する主要な要素

ここで述べられている「統合コンプレックス」は、大きく分けて4つの要素から構成されていると解釈できます。これらは互いに連携し合うことで、初めてその真価を発揮します。

1. ロボティクス: 従来の溶接や塗装といった定型作業を担う産業用ロボットに加え、近年は人との協働が可能な協働ロボットの導入も進んでいます。これにより、これまで自動化が難しかった組立工程や、多品種少量生産のラインにおいても、柔軟な自動化が可能になります。

2. 自動搬送システム (Automated Handling Systems): AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)が、工程間の部品や仕掛品の搬送を担います。これにより、運搬作業の省人化はもちろん、生産の進捗に合わせて必要なモノを必要なだけ供給するジャストインタイムの精度が向上し、工場内の仕掛在庫の削減やリードタイム短縮に直結します。

3. デジタル検査ツール (Digital Inspection Tools): カメラを用いた画像検査装置や各種センサーが、人による目視検査に代わって品質を保証します。デジタル化された検査データは、リアルタイムで品質管理システムに蓄積され、不良の早期発見や原因究明、トレーサビリティの確保に大きく貢献します。また、収集したデータを分析することで、品質のばらつきを抑えるための工程改善にも繋がります。

4. スマート生産管理 (Smart Production Management): 上記3つの物理的な要素(ハードウェア)を統合し、制御するのがこの生産管理システム(ソフトウェア)です。MES(製造実行システム)などがその中核を担い、生産計画の策定、各設備の稼働状況の監視、作業進捗の可視化、品質データの収集・分析などを行います。現場で発生する様々な情報をリアルタイムに吸い上げ、最適な生産指示を出す「工場の司令塔」としての役割を果たします。

日本の製造現場における現実的な課題

このような統合システムを構築することは、決して容易ではありません。特に日本の製造現場では、長年使い続けてきた既存設備と新しいデジタル技術をいかにして融合させるか、という課題に直面することが少なくありません。すべての設備を一度に刷新するのは現実的ではなく、既存の資産を活かしながら、段階的にデジタル化・ネットワーク化を進めていく視点が不可欠です。

また、各設備メーカーの仕様が異なり、システム間のデータ連携がスムーズにいかないといった問題も散見されます。こうした技術的な課題を乗り越え、自社の生産方式に合った統合システムを構想・設計できる知見が、現場の技術者や工場管理者には一層求められるようになっています。

日本の製造業への示唆

今回の記事から、日本の製造業が今後取り組むべき方向性として、以下の点が示唆されます。

1. 「点の自動化」から「線・面の統合」へ:
個々のロボットや検査装置を導入するだけでなく、それらをデータで繋ぎ、工程間、ひいては工場全体の流れを最適化するという視座を持つことが重要です。設備投資を計画する際には、常にシステム全体の連携を意識した設計が求められます。

2. データ活用のための基盤整備:
統合システムの根幹はデータです。現場の正確なデータを収集し、一元的に管理・活用するためのITインフラ(ネットワーク、サーバー、データベースなど)の整備は避けて通れません。まずは特定のラインからでも、稼働データや品質データを収集・可視化する取り組みを始めることが第一歩となります。

3. ハードとソフトを理解する人材の育成:
機械や電気といった従来の生産技術の知識に加え、ITやデータ分析のスキルを併せ持つ人材の育成が急務です。外部のシステムインテグレーターに任せるだけでなく、自社内にシステムの全体像を理解し、主体的に改善を推進できる人材を育てていく必要があります。

4. スモールスタートによる段階的な展開:
最初から工場全体の完璧なシステムを目指すのではなく、まずは特定の課題を解決するためのモデルラインを構築し、そこで効果を検証しながら成功体験を積み重ねていくアプローチが現実的です。小さな成功を積み重ね、その効果を社内で共有することで、全社的な取り組みへと繋げていくことができます。

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