製品の多品種化が進む現代において、製品バリエーション(SKU)の管理は多くの製造業にとって重要な経営課題です。ドイツの玩具メーカーの事例から、増加するSKUに対し「規律」をもって臨み、製品ポートフォリオを最適化するアプローチを考察します。
増加するSKUと「休眠製品」の課題
昨今の市場ニーズの多様化に応えるため、多くの製造業では製品のバリエーション、すなわちSKU(Stock Keeping Unit)が増加する傾向にあります。あるドイツの玩具メーカーでは、取り扱うフィギュアの種類が1,300にまで拡大したと報告されています。しかし、注目すべきは、そのすべてが常に能動的に生産されているわけではない、という点です。これは、製品ラインナップの拡大に伴い、一部が事実上の「休眠製品」となっている状況を示唆しており、日本の製造業の現場でも決して珍しい光景ではありません。
SKUの増加は、一見すると顧客満足度の向上に繋がるように思えます。しかしその裏側では、生産計画の複雑化、在庫管理コストの増大、使用頻度の低い部品や原材料のサプライヤー維持、さらには金型や治具の保管・メンテナンスといった、目に見えにくい負担が着実に蓄積されていきます。特に、販売実績が低迷しているにもかかわらずカタログに残り続ける製品は、経営資源を静かに蝕む要因となり得ます。
「SKUの規律」という考え方
前述のドイツ企業が実践しているのが、「厳格なSKUの規律(rigorous SKU discipline)」です。これは、単に製品を増やすだけでなく、同時に製品ポートフォリオを健全に保つための経営方針を指します。具体的には、販売実績や収益性などの客観的なデータに基づき、パフォーマンスの低い製品を定期的に見直し、計画的に生産中止や廃番(フェーズアウト)の対象とする仕組みを徹底しています。
日本の製造現場では、「特定顧客向けの特注品だから」「いつかまた注文が来るかもしれない」といった理由で、不採算製品が温存されがちです。しかし、こうした情緒的あるいは場当たり的な判断ではなく、経営としての一貫したルール、すなわち「規律」に基づいて製品の棚卸しを行うことが、持続的な成長のためには不可欠と言えるでしょう。この規律は、どの製品に経営資源を集中させ、どの製品から撤退するかを合理的に判断するための羅針盤となります。
製品ライフサイクル管理との連携
「SKUの規律」は、製品ライフサイクル管理(PLM)の思想と密接に関連しています。製品には導入期、成長期、成熟期、そして衰退期というサイクルがあり、それぞれの段階で取るべき戦略は異なります。特に重要なのが「衰退期」にある製品の扱いです。これらの製品をいかに円滑に市場から退出させるかが、企業全体の生産性や収益性を大きく左右します。
明確な基準に基づいて衰退期の製品を整理することで、空いた生産能力や開発リソース、人員、資金といった貴重な経営資源を、新たな成長分野や新製品開発へと再配分することが可能になります。これは、変化の激しい市場環境に適応し、企業としての競争力を維持・強化していく上で、極めて合理的な経営判断であると言えます。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に、実務への示唆として要点を整理します。
1. SKUの定期的評価と整理
自社の全製品(SKU)を対象に、販売実績、利益貢献度、生産効率といった観点から定期的な評価を行う仕組みを構築することが重要です。そして、設定した基準に満たない製品については、廃番を検討するプロセスを定常業務として組み込むべきです。
2. 客観的な判断基準の導入
製品の継続・中止を判断するための、客観的で定量的な基準を明確に定める必要があります。「戦略的重要性」といった定性的な要素も考慮しつつも、それが特定の担当者の個人的な思い入れなどに左右されないよう、ルールに基づいた評価が求められます。
3. 部門横断での取り組み
SKU管理は、開発、生産、購買、営業、経営企画など、複数の部門にまたがる課題です。特定の部門だけで判断するのではなく、全社的な方針として「SKUの規律」を共有し、部門横断のチームでレビューを行う体制が効果的です。
4. 経営資源の最適配分
不採算製品の整理は、単なるコスト削減活動ではありません。それによって生み出されたリソースを、いかにして将来の成長に繋げるかという、未来志向の視点が不可欠です。製品ポートフォリオの最適化を通じて、事業全体の競争力を高めるという経営戦略の一環として捉えることが肝要です。


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