米国の公園で開催されたイルミネーションイベントの運営に、ソニー・ミュージックが関わっていることが報じられました。一見、製造業とは無関係に見えるこの事例は、実は生産管理やサプライチェーンの知見を応用した「コト作り」の好例であり、日本の製造業にとっても示唆に富むものです。
異業種に見えるイベント事業と製造業の共通点
米カリフォルニア州のゴールデン・ゲート・パークで開催されたホリデーシーズンのイルミネーションイベント。この企画・運営に、英国のソニー・ミュージックとプロダクション管理会社であるカルチャー・クリエイティブ社が共同で携わっていると報じられました。音楽事業を手掛ける企業が、なぜイベントのプロデュースを行っているのでしょうか。この背景には、製造業とも共通する「生産管理」の思想が見て取れます。
イベントの開催は、単なる企画立案だけでは成り立ちません。照明、音響、設営、人員配置、安全管理、チケット販売など、無数の要素が複雑に絡み合います。これらを定められた期間と予算の中で、高い品質を保ちながら実行するには、極めて高度なプロジェクトマネジメント能力が求められます。これは、多様な部品を調達し、工程を管理し、定められた納期までに製品を完成させる製造業の工場運営と本質的に同じ構造を持っていると言えるでしょう。イベントという「体験(コト)」を、製造業における「製品(モノ)」と捉えれば、その企画から実行までのプロセスは一種の生産活動そのものなのです。
「モノ」から「コト」へ:生産管理ノウハウの応用
今回の事例で興味深いのは、ソニー・ミュージックが、イベント制作の専門家であるプロダクション管理会社と協業している点です。これは、自社の持つブランド力やコンテンツ企画力と、外部の専門的な「生産技術」を組み合わせることで、付加価値の高いサービスを生み出すという戦略です。製造業においても、自社のコア技術と、外部の専門技術(例えばAIやIoTの専門企業)を組み合わせるオープンイノベーションが重要視されていますが、それと全く同じ考え方です。
イルミネーションイベントは、いわば「期間限定の移動式工場」のようなものです。開催地ごとに異なる環境条件(地形、電源、気候など)に合わせて、最適な「生産ライン」を設計し、資材(機材)を運び込み、組み立て、会期中は安定稼働させ、終了後は速やかに撤収する。この一連の流れは、製造現場における生産準備、量産、そしてラインの変更や撤去といったプロセスと酷似しています。そこでは、緻密な工程設計、サプライヤー管理、現場での問題解決能力といった、製造業で培われた実務的なスキルがそのまま活かされるのです。
日本の製造業への示唆
この事例から、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。以下に要点を整理します。
1. コア技術・ノウハウの横展開
長年のものづくりで培ってきた生産管理、品質管理、サプライチェーンマネジメントといったノウハウは、製造業という枠を超えて応用可能な普遍的な経営資源です。自社の強みを再定義し、サービス業やイベント事業など、異業種への展開可能性を検討する価値は十分にあります。
2. 「コト作り」への事業シフト
市場の成熟化に伴い、顧客は単なる「モノ」の所有から、それを通じて得られる「体験(コト)」へと価値の軸足を移しています。製品を売るだけでなく、製品を使ったサービスや体験を提供するビジネスモデルへの転換は、多くの製造業にとって重要な課題です。今回の事例は、その具体的なアプローチの一つを示しています。
3. 外部の専門性との連携
新しい事業領域へ進出する際、すべてを自社でまかなう必要はありません。ソニーがイベント制作のプロと組んだように、外部の専門家やパートナーと積極的に連携することで、リスクを抑えながらスピーディーに事業を立ち上げることが可能です。自社の強みと弱みを冷静に分析し、最適なパートナーシップを構築する能力が今後ますます重要になります。
一見すると華やかなエンターテインメント業界のニュースですが、その裏側には製造業にも通じる地道で論理的なプロセスマネジメントが存在します。自社の持つ無形の資産をいかにして新たな価値創造に繋げるか、そのヒントがこの事例には隠されていると言えるでしょう。


コメント