FDAの見解に学ぶ、製造プロセスの「検証」と「バリデーション」の正しい使い分け

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製造プロセスの品質を保証する上で不可欠な「検証(Verification)」と「バリデーション(Validation)」。米国の規制当局であるFDA(食品医薬品局)の専門家が、両者の使い分けに関する実務的な指針を示しました。この考え方は、規制対象の業界だけでなく、日本のすべての製造業にとって重要な示唆を含んでいます。

はじめに:「検証」と「バリデーション」の混同

品質管理や生産技術に携わる方であれば、「検証(Verification)」と「バリデーション(Validation)」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。特に、医療機器や医薬品、食品といった分野では、規制要件として厳密な管理が求められます。しかし、一般の製造現場においても、この二つの概念を正しく理解し、使い分けることは品質保証の根幹をなす重要な要素です。しばしば、これらの用語は混同されたり、その本質的な違いが曖昧なまま使われたりすることがあります。先日、米国のカンファレンスでFDAの専門家が示した見解は、この問題を整理し、実務に落とし込む上で非常に参考になります。

FDAが示す、基本的な考え方

FDAの専門家が強調したのは、両者を区別する中心的な問いです。それは、「プロセスの結果が、後続の検査や試験によって完全に検証できるか否か」という点に尽きます。この問いを軸に、それぞれの定義を見ていきましょう。

検証(Verification)とは何か

検証とは、「定められた要求事項が満たされていることを、客観的証拠の提示によって確認すること」です。平たく言えば、「仕様書や図面通りに正しく作られているか」を一つひとつ確認する活動です。例えば、機械加工された部品の寸法を測定する、組み立てられた製品が正しく動作するかを試験する、といった行為がこれにあたります。検証の対象は、その結果を直接的、かつ定量的に測定・評価できるものです。

バリデーション(Validation)とは何か

一方、バリデーションとは、「そのプロセスが、あらかじめ定められた要求事項に適合する製品を一貫して生み出すことを、客観的証拠の提示によって確認すること」です。こちらは、「そのやり方(プロセス)で、常に狙い通りのものが安定して作れること」を証明する活動を指します。バリデーションが特に重要になるのは、プロセスの結果(製品の品質)を、後から検査するだけでは完全には保証できない「特殊工程」です。例えば、滅菌、溶接、接着、熱処理、塗装といった工程が典型例です。これらの工程は、製品を破壊しなければその内部品質を100%確認できなかったり、そもそも全数検査が現実的でなかったりします。そのため、プロセスそのものが安定していることを事前に証明(バリデーション)し、その状態を維持管理することが不可欠となるのです。

日本の製造現場における考え方

このFDAの考え方は、米国の規制対応に限った話ではありません。品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 9001でも、「製品の検証が後続の監視・測定で不可能、または困難な場合、組織はそのプロセスについてバリデーションを行わなければならない」と定められており、その思想は共通しています。

日本の製造現場に置き換えてみましょう。日々の品質管理活動で行われる受入検査、中間検査、最終検査の多くは「検証」に分類されます。これは、決められた規格に対し、製品が適合しているかを確認する行為だからです。一方で、例えば自動車部品の重要な溶接工程を考えてみましょう。溶接部の内部強度を全数、非破壊で完全に保証することは困難です。そこで、適切な溶接条件(電流、電圧、速度など)を定め、その条件で加工すれば常に要求強度を満たすことを事前に実験データで証明し、その条件を厳密に管理する、というアプローチが取られます。これがまさに「バリデーション」の考え方です。

つまり、単に「検査でOKだったから良い」とするのではなく、「なぜこのプロセスなら良いものが安定して作れるのか」を科学的根拠に基づいて証明し、管理することがバリデーションの本質と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回のFDA専門家の見解を踏まえ、日本の製造業の実務において以下の点が重要であると考えられます。

1. 「特殊工程」の再認識と特定
自社の製造プロセスの中に、後からの検査だけでは品質を完全に保証できない「特殊工程」が存在しないか、改めて見直すことが重要です。溶接、接着、塗装、熱処理、鋳造、めっき、樹脂成形など、多くの工程が該当する可能性があります。これらの工程を特定し、重点的に管理する対象と認識することが第一歩です。

2. 「検証」から「バリデーション」への思考転換
特殊工程に対しては、最終製品の抜き取り検査といった「検証」に頼るだけでなく、プロセス自体が安定して結果を出せることを証明する「バリデーション」の考え方を導入することが求められます。これは、工程設計の段階でパラメータを最適化し、その妥当性を確認・記録し、量産中はパラメータが維持されていることを監視する、という一連の活動を意味します。いわゆる「源流管理」の考え方そのものです。

3. 品質保証体制の強化
経営層や工場長は、自社の品質保証体制が「検証」に偏重していないかを確認する必要があります。市場不具合や重大なクレームは、こうした特殊工程の管理不備に起因することも少なくありません。バリデーションの考え方に基づき、プロセスの安定性を担保するための設備投資や人材育成にリソースを配分することは、長期的に見て手戻りや不良コストを削減し、企業の競争力強化に直結します。

「検証」と「バリデーション」は、品質管理における車の両輪です。両者の違いを正しく理解し、自社のプロセスに応じて適切に使い分けることで、より堅牢で信頼性の高いものづくりを実現することができるでしょう。

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