ベトナムでは今、国を挙げたイノベーション推進策のもと、スタートアップ・エコシステムが力強く成長しています。この動きは、単にIT分野に留まらず、生産管理やサプライチェーンといった製造業の根幹にも変化をもたらす可能性を秘めています。本稿では、このベトナムの新たな潮流が、日本の製造業にどのような影響を与えうるのかを考察します。
ベトナムで加速するイノベーション推進の動き
近年、ベトナム政府は「2021-2025年社会経済開発計画」などを通じ、科学技術開発とイノベーションを国家の重要戦略として位置づけています。この政策的後押しを受け、国内では多くのスタートアップが生まれ、新たな技術やサービスを競い合う活気あるエコシステムが形成されつつあります。これまでは安価で豊富な労働力を背景とした生産拠点としての側面が注目されてきましたが、今後は技術革新を生み出す拠点としての存在感も増していくものと考えられます。
生産管理・サプライチェーンへの波及
元記事で触れられているように、このイノベーションの波は「生産管理」や「サプライチェーン管理」といった、我々製造業の実務に直結する領域にも及んでいます。例えば、現地のスタートアップが開発する、中小製造業向けの手頃な生産管理システム(SaaS)や、物流を効率化するプラットフォームなどがその一例です。これまで、ベトナムの生産拠点では、日本本社のシステムを導入するか、あるいはExcelなど手作業での管理に頼ることが少なくありませんでした。しかし今後は、現地の商習慣や実態に即したソリューションを、現地で調達できる可能性が広がっています。これは、サプライチェーンの柔軟性や現地オペレーションの自律性を高める上で、重要な選択肢となり得るでしょう。
「生産委託先」から「共創パートナー」へ
こうしたエコシステムの成長は、人材の質にも変化をもたらします。最新の技術に明るく、課題解決意欲の高い若手人材が育つ土壌が醸成されつつあるからです。日本の製造業にとって、これは大きな機会となり得ます。単に製造を委託する関係に留まらず、現地の技術者やスタートアップと連携し、製品の共同開発や生産プロセスの改善を共に進める「共創パートナー」としての関係を築けるかもしれません。現地のニーズを汲み取った製品開発や、より高度な品質管理体制の構築など、新たな価値創造の可能性が考えられます。
日本の製造業への示唆
今回のベトナムの動向から、我々日本の製造業は以下の点を実務的な視点で捉える必要があるでしょう。
1. ベトナムの位置づけの再評価:
従来の「チャイナ・プラス・ワン」としてのコストメリット中心の生産拠点という見方だけでなく、技術革新や新たなソリューションが生まれる「イノベーション・パートナー」としての可能性を視野に入れるべき時期に来ています。現地の技術動向やスタートアップの情報を定期的に収集することが重要です。
2. 現地サプライチェーンの高度化:
ベトナム国内で提供され始めた生産管理や物流管理のツール・サービスを、自社の現地工場やサプライヤーに導入することを検討する価値があります。これにより、サプライチェーン全体の可視化や効率化を、現地の状況に合わせて低コストで実現できる可能性があります。
3. 人材戦略の多様化:
現地法人での採用において、従来型の製造オペレーターだけでなく、ITスキルや改善提案能力を持つ技術者の獲得・育成を強化することが求められます。現地の優秀な人材を活かし、日本本社と連携させることができれば、グローバルな競争力を高める一助となるでしょう。
ベトナムの地で起きている変化は、我々の海外生産戦略やサプライチェーンのあり方に、静かながらも確実な影響を与え始めています。この変化を的確に捉え、自社の戦略にどう活かしていくか、経営層から現場までが一体となって考えることが、今後の持続的な成長に繋がるものと考えられます。


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