オペレーションズ・マネジメントの潮流を読み解く – サプライチェーン、サービス化、持続可能性の深化

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世界的なオペレーションズ・マネジメント研究は、我々製造業が直面する課題解決のヒントを与えてくれます。本稿では、権威ある学術誌の一号を紐解きながら、サプライチェーン統合、サービス化(サービタイゼーション)、そして持続可能性という3つの重要テーマについて、日本の実務家の視点から解説します。

はじめに

「International Journal of Operations & Production Management」は、生産管理や工場運営に関する世界最先端の研究が発表される学術誌の一つです。今回は、その2018年のある号で特集された論文群を題材に、少し時間が経過した今だからこそ見えてくる、現代の日本の製造業にとっても普遍的かつ重要な論点を考察します。示されているのは、サプライチェーンのあり方、製造業のサービス化、そしてリーン生産と持続可能性の融合という、避けては通れない経営課題です。

サプライチェーン統合の進化:関係性と契約の最適なバランス

サプライチェーンの統合が企業の競争力を左右することは、もはや論を俟ちません。掲載された複数の論文では、単なる情報共有やモノの流れの同期に留まらない、より深いレベルでの統合が議論されています。特に注目すべきは、パートナー企業との関係性を規定する「ガバナンス」のあり方です。具体的には、信頼や共同目標といった非公式な「関係的ガバナンス」と、契約やルールに基づく公式な「契約的ガバナンス」の双方が、業績向上に不可欠であると示されています。

これは、我々日本の製造業の慣行にも通じるものがあります。これまで系列取引などで培ってきた、いわば「あうんの呼吸」とも言える強固な信頼関係は、関係的ガバナンスの好例です。しかし、サプライチェーンがグローバル化し、取引先が多様化する現代においては、それだけでは不十分な場面も増えています。勘や信頼だけに頼るのではなく、役割分担や成果指標を明確にした契約を整備することで、関係性はより強固で透明性の高いものになります。日本の強みである信頼関係を基盤としながら、国際標準の契約関係をいかに組み合わせていくかが、今後のサプライチェーン管理の要諦と言えるでしょう。

製造業のサービス化(サービタイゼーション)を成功させる組織の鍵

製品を売るだけの「モノ売り」から、顧客の課題解決や価値創造に貢献する「コト売り」へ。製造業のサービス化、すなわちサービタイゼーションは、多くの企業にとって重要な経営戦略となっています。しかし、その実現は容易ではありません。このテーマに関する論文では、サービス化を成功させるためには「社内へのサービス浸透(internal service infusion)」が極めて重要であると指摘されています。

これは、単にサービス部門を新設するだけでは不十分で、設計、開発、製造、営業といった全部門がサービスという視点を共有し、組織文化として根付かせる必要があることを意味します。例えば、製品の設計段階からメンテナンスのしやすさや遠隔監視機能を組み込む、製造部門の知見を活かして顧客向けのトレーニングプログラムを開発するなど、組織横断的な連携が不可欠です。高品質なモノづくりを強みとしてきた日本の製造業にとって、製品中心の思考から脱却し、全社を挙げてサービス志向の組織へと変革していくことが、サービス化を成功させるための本質的な課題であると言えます。

リーン生産の再評価:持続可能性(サステナビリティ)への貢献

トヨタ生産方式を源流とするリーン生産は、徹底した「ムダ取り」による効率化の手法として世界に広まりました。ある論文では、このリーン生産の実践が、経済的なパフォーマンスだけでなく、環境的・社会的なパフォーマンス、すなわち「トリプルボトムライン」の向上にも貢献することが実証的に示されています。

考えてみれば、これは当然のことかもしれません。エネルギーや原材料の消費を最小限に抑えることはコスト削減と環境負荷低減に直結しますし、作業の標準化や安全性の追求は従業員の労働環境改善に繋がります。これまで我々が現場で地道に続けてきたカイゼン活動や5Sといった取り組みは、ESG経営やSDGsが重視される現代において、企業の持続可能性を高めるための強力な武器となり得るのです。現場の改善活動を、単なる生産性向上の手段としてだけでなく、企業の社会的価値を高める重要な活動として再定義し、経営戦略の中に明確に位置づけていくことが求められています。

日本の製造業への示唆

今回取り上げた学術研究から、日本の製造業が今後取り組むべき実務的な方向性として、以下の3点が示唆されます。

1. サプライチェーンの再構築:長年培ってきたパートナーとの強固な「信頼関係」を基盤としつつ、役割と責任を明確にする「契約関係」を適切に組み合わせることで、より強靭で変化に強いサプライチェーンを構築することが重要です。従来の慣行を見直し、グローバルな視点でガバナンスのあり方を再設計する時期に来ています。

2. サービス化への本質的な転換:製品の提供価値を最大化するため、組織の壁を越えてサービス視点を共有する文化を醸成する必要があります。これは、部門横断のプロジェクト推進や、サービスを前提とした製品開発プロセスの見直し、そしてそれを支える人材育成といった、全社的な取り組みを必要とします。

3. 現場力の再定義と活用:我々の強みである「カイゼン」に代表される現場力を、ESGやサステナビリティといった新たな経営の価値基準と結びつけるべきです。現場の地道な活動が、企業の環境・社会貢献に直結することを全社で認識し、その価値を社内外に発信していくことが、新たな競争力に繋がります。

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