シーメンス・エナジー社が、自社の積層造形(AM)施設から排出される使用済みのニッケル合金粉末を、材料技術企業の6K社に供給する長期契約を締結しました。この動きは、金属AMにおける材料のサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進し、コストと環境負荷という積年の課題解決に向けた重要な一歩として注目されます。
提携の概要:使用済み金属粉末を再び価値ある材料へ
シーメンス・エナジー社と、先進的な材料製造技術を持つ6K社は、長期的な供給契約を締結したことを発表しました。この契約に基づき、シーメンス・エナジーは自社のAM(Additive Manufacturing、いわゆる金属3Dプリンター)の生産工程で発生した使用済みのニッケル合金粉末を6K社に供給します。6K社は、独自のプラズマ技術を用いてこれらの使用済み粉末を再生し、再び高品質なAM用粉末として市場に供給することを目指します。
金属AMにおける材料リサイクルの重要性
金属AMは、複雑形状部品の一体成形や開発リードタイムの短縮といった利点から、航空宇宙、エネルギー、医療などの分野で活用が広がっています。しかしその一方で、材料コストの高さが普及を阻む一因となっていました。特に、ガスタービン部品などに用いられる高性能なニッケル超合金は非常に高価です。
また、AMの造形プロセス、特に粉末床溶融結合(PBF)方式では、実際に部品として固められる粉末は全体の一部であり、多くの未使用・未溶融の粉末が残ります。これらの粉末は、熱履歴を受けることによる品質変化の懸念などから、再利用回数に制限が設けられたり、廃棄されたりするケースも少なくありませんでした。高品質な材料を無駄なく使い切ることは、コスト競争力だけでなく、環境負荷低減の観点からも、製造業にとって重要な経営課題となっています。
廃棄物から高付加価値材料を生み出す技術
今回の提携の鍵を握るのは、6K社が持つ「UniMelt®」というプラズマ技術です。この技術は、使用済み粉末だけでなく、機械加工で発生する切り粉(スクラップ)やサポート材など、従来はリサイクルが困難だった原料からも、清浄で球状性の高い高品質なAM用金属粉末を製造できるとされています。これは単なるリサイクルにとどまらず、価値の低い材料から高付加価値な製品を生み出す「アップサイクル」の取り組みと捉えることができます。
このような取り組みは、バージン材(新品の原料)への依存度を下げ、サプライチェーンの安定化にも寄与する可能性があります。地政学的なリスクや資源価格の変動が激しい昨今、自社やパートナー企業内で材料を循環させる仕組みを構築することは、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に有意義です。
日本の製造業への示唆
今回のシーメンス・エナジーと6K社の提携は、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. AMのコスト構造に変革をもたらす可能性
高価な金属粉末の再利用・再生が一般的になれば、AMによる部品製造のトータルコストは大幅に下がる可能性があります。これは、AM技術の適用範囲をさらに広げ、競争力の源泉となり得ます。自社で発生する使用済み粉末やスクラップの価値を再評価し、その管理・活用方法を検討する時期に来ていると言えるでしょう。
2. サステナビリティ経営の実践
材料の循環利用は、環境負荷を低減し、企業の社会的責任(CSR)やESG(環境・社会・ガバナンス)経営の目標達成に直結します。サプライチェーン全体でのCO2排出量削減などが求められる中で、こうした具体的な取り組みは、顧客や投資家からの評価を高める上で重要な要素となります。
3. サプライチェーンの強靭化
原料の多くを海外からの輸入に頼る日本にとって、国内で発生するスクラップや使用済み材料を資源として循環させるクローズドループの構築は、サプライチェーンの安定性と強靭性を高める上で極めて重要です。AM技術を、こうした新たなものづくりのエコシステムの中核として位置づける戦略的視点が求められます。
金属AMを導入している、あるいは導入を検討している企業においては、単に造形技術として捉えるだけでなく、材料のライフサイクル全体を見据えた運用戦略を構築することが、今後の競争力を左右する鍵となりそうです。


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